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サッカー審判への接し方|試合を壊さない話法と所作

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「審判とのコミュニケーション」は、試合の流れやカードの数、プレーの質にまで影響します。言葉と所作で相手(審判)の認知負荷を下げ、試合を壊さず、むしろ整えていく。これは技術や戦術と同じくらい、勝敗に関わるスキルです。本記事では、Laws of the Game(IFAB競技規則)の前提を踏まえながら、試合前−中−後の話し方・振る舞いをテンプレート化。誰でも今日から実践できる「壊さない接し方」を具体的にまとめます。

はじめに:なぜ審判への接し方が試合を左右するのか

審判の認知負荷とゲームフロー

審判は90分間、高速で移動しながら多方向の情報を処理しています。近距離での大声・同時多発の抗議・皮肉のジェスチャーは、認知負荷を上げ、判定スピードと質を下げかねません。逆に、短く、整理された情報を適切なタイミングで届けると、審判の判断が速くなり、再開がスムーズになります。ゲームフローを良くするコミュニケーションは、結果的に自分たちのチャンスも増やします。

心理的安全性とプレー品質の関係

選手も審判も人です。攻撃的な言動が増えると、緊張や警戒が高まり、早笛・遅笛・カードの閾値にも揺らぎが生まれます。落ち着いた対話は、双方の心理的安全性を高め、プレーの質を引き上げます。審判が「情報はこの選手から冷静に来る」と理解すれば、その選手の言葉は通りやすくなります。

フェアプレーと懲戒の設計思想

競技規則は「試合を安全・公平に進める」ためにあります。異議・侮辱・遅延などの懲戒規定は、プレーより“ゲーム”の秩序を守るための設計です。つまり、言動次第で自分たちの人数・時間・流れを失う可能性があるということ。接し方の最適化は、フェアプレーであると同時に、実用的な勝ち筋でもあります。

ルールの前提整理:Laws of the Gameと懲戒のライン

異議と抗議の違い・カード対象になる言動

競技規則上、「異議(dissent)」は主審の判定に対する言葉や身ぶりによる反発で、原則イエローカード対象です。侮辱的・わいせつ・差別的な発言や身ぶりは退場(レッド)対象。大げさな皮肉拍手や囲みも異議に含まれます。「お願い」や「確認」は許容範囲でも、トーンや回数が越えると懲戒となり得ます。

主審・副審・第4の審判の役割分担

主審は最終決定者。副審は主にオフサイド、ファウル補助、ボールの出入りの判断を支援。第4の審判は交代管理、テクニカルエリアの監督、必要に応じ主審を支援します。オフサイドやタッチライン際の事象は基本的に副審が窓口。誰に何を伝えるのが適切か、整理して臨みましょう。

キャプテンの役割(特別な権利はないが責任はある)

キャプテンに特別な発言権は明記されていませんが、審判は「代表者」としての対話を期待することが多いです。情報の集約、言葉のトーン、タイミング管理はキャプテンの重要な責務。キャプテンが落ち着いていれば、チームの振る舞いも安定します。

試合前・試合中・試合後のコミュニケーション設計

キックオフ前の挨拶と期待値合わせ

主審に「本日よろしくお願いします。こちらは番号◯◯が主に話します。危険な接触とセットプレー内のホールディングを特に見ていただけると助かります。」と伝えるだけで、窓口と注視点が共有できます。副審にも短く「オフサイド時は必要なら確認しますので合図ください」と礼儀正しく挨拶を。

試合中に話せる“時間の窓”を見極める

安全な窓は、ボールデッド直後、カード提示後の再開準備中、スローイン前やFKのセット中など。走路を塞がず、1.5〜2mの距離で最短5秒で要点を伝えます。プレーが動き出したら即終了。長話や詰め寄りは流れを壊します。

ハーフタイムに伝える内容の整理

前半の傾向を「事実ベースで1〜2点」に絞り、「次に注意してほしい点」を付け加えるのがコツ。例:「CK内の腕の引きが2回続きました。次は注意をお願いします。」感情的な表現や皮肉は不要です。

試合後のフィードバックと振り返り

試合後は短く礼を述べ、確認したい1点だけ共有。「本日はありがとうございました。前半のハンドの基準を後学のために教えていただけますか?」感情が高い時は後日チームで振り返り、映像とLOTGで確認しましょう。

話法:試合を壊さない言い方テンプレート

事実→感情→要望の順で簡潔に

例:「今のチャージ、背中からの接触でした(事実)。少し危険に感じます(感情)。次、注意して見てください(要望)。」この順番は、防御的反応を招きにくく、再現性があります。

Yes/No詰問を避け、選択肢で確認する

「今の見えてましたか?」は詰問になりがち。代わりに「接触の強度で見ましたか、それとも手の位置ですか?」のように選択肢を出すと、対話が建設的になります。

根拠や基準を尋ねるときの安全な表現

「次に活かしたいので、どの点でハンドと判断されましたか?」や「セット内の基準は“掴みの継続”で見ていますか?」など、学習意図を明確にします。

“お願い”と“抗議”の線引き

お願いは「未来志向・短く・1回」。抗議は「過去の是正要求・反復・高圧」。未来志向に徹し、同じ要求は繰り返さないことが境界線を超えない秘訣です。

NGワード・OKワード:審判に伝わる語彙の選び方

侮辱・嘲笑・皮肉は即アウトの可能性

NG例:「ふざけんな」「見えてないだろ」「最悪」「お前」「買収かよ」「ありえない」。皮肉拍手やオーバーリアクションも異議扱いになり得ます。

短く具体的なフレーズの例

  • 「10番の腕、引っ張りが続いてます。次お願いします。」
  • 「背中からのチャージでした。危険です。注意をお願いします。」
  • 「CK内、ブロックの位置だけ見てください。」
  • 「ハンドの基準、次のプレーに向けて教えてください。」

審判の呼びかけ方と配慮(名前・敬称・声量)

「主審さん」「ラインズさん」よりも「レフリー」「アシスタントレフリー」の方が中立的。名前を事前に聞けたら「〇〇さん」。声は届く最小限、語尾は下げて落ち着きを出します。

所作:距離・視線・手の位置で伝わる印象を整える

1.5〜2mの距離感と進路の確保

近すぎると圧迫、遠すぎると届かない。1.5〜2mが基準。審判の進路は常に空け、前に回り込まないのがマナーです。

走路を塞がない立ち位置と体の向き

斜め前に立ち、肩を開く角度で。真正面は対立の構図になりやすい。自分がボール側の視野を塞いでいないかも意識しましょう。

手振り・指差し・拍手の扱い方

指差しは事実の位置示しに限定し、顔や胸を指すのは避ける。拍手は称賛のみに。皮肉拍手は誤解を招きます。両手は腹の前で落ち着かせると、攻撃性の印象が薄れます。

倒れた選手への配慮と審判への確認を両立する

すぐに自チームの安全確認をしつつ、審判に「頭部です、止めてください」など危険度を一言で伝える。安全>連続プレー>抗議の順が鉄則です。

役割別の接し方:キャプテン・GK・CB・MF・FW

キャプテン:情報の集約と代表者としての話し方

チーム内の不満や要望はキャプテンに集約。「今の2件だけ伝えます」と前置きして要点を届ける。メンバーには「審判への要件は私経由」と徹底します。

GK:時間管理と再開時のコミュニケーション

ゴールキックやスローの再開前は良い窓。「相手9番の突進、距離確保お願いします」「ボールの位置、ここで大丈夫ですか?」など、再開を遅らせず確認します。

CB:セットプレー時の確認事項

CK前に「掴みの継続、見てください」。相手のスクリーン位置を指で示し「この位置のブロック、OKですか?」と事前確認。未来志向の一言が効きます。

MF:流れを壊さない調整力

中盤は審判の近くにいる時間が長い。軽い接触が続く時は「強度が上がってます。ケガが心配です」とトーンを落として共有。流れを止めない言い方を意識。

FW:接触アピールの作法と再開への切替

接触後は過度なアピールより「今の腕です」とキーワードを1語だけ。すぐ起きて次の動きへ。切替が早い選手は、審判からも信頼されやすいです。

局面別の対応:ハンド・オフサイド・接触・遅延

ハンドの基準を確かめたいときの伝え方

ハンドは「意図」「不自然に体を大きくしたか」「距離や反射」の観点が重視されます。聞き方は「手の位置と体の大きさ、どちらを重く見ましたか?次に活かします」。基準を学ぶ姿勢が大切です。

オフサイドは副審が窓口:安全なアプローチ

プレーが切れた際、タッチライン近くで副審に「ディレイで見ましたか、それとも干渉ですか?」と低い声で。主審を飛ばして詰めるのはNG。最終決定は主審にあります。

接触ファウルは“強度・点・方向”で簡潔に

「強く」「脛に」「後ろから」。3点セットで要約。「今のは後ろから脛に強くです。注意お願いします。」情報は短く、感情は抑える。

遅延と再開を巡る会話のコツ

相手の遅延が続く時は「再開までの時間が延びています。管理をお願いします」。自分たちもボールキープや位置ずらしで遅延と見なされないよう注意を。

感情のセルフマネジメント:熱を冷ます短期テクニック

6秒呼吸と視線のリセット

鼻から3秒吸って3秒吐くを2セット。視線をピッチ外の一点に置くとリセットが早まります。呼吸は声のトーンも整えます。

言い返しを3拍遅らせるルール

「1、2、3」と心で数えてから発話。衝動的な一言を防ぎます。3拍の間に“事実→要望”へ言い換えます。

チーム内の“止め役”を決めておく

感情が上がりやすい選手の近くに、冷静な“止め役”を配置。「ここは任せろ」「切り替えよう」の合図で二次被害を防ぎます。

チーム規範の作り方:言葉と所作に一貫性を持たせる

ルールブックを練習に取り込む方法

週1回、練習前にLOTGの1項目を共有。動画や実例を10分で学ぶ。ルール理解が深いほど、言い方も具体的になります。

抗議人数・距離・時間のチームルール

「話すのは1人」「距離1.5m」「5秒以内」「同じ論点は1回まで」をチームルールに。破ったらキャプテンが即リセットの声かけ。

スタッフの役割分担と選手への声かけ

ベンチも“技術的助言”の範囲で。スタッフは選手に対して「次の基準に合わせよう」と未来志向の声かけに統一。

トレーニングメニュー:話法と所作を鍛える実践ドリル

審判役を置いたロールプレイ

10分ゲームで1人を審判役に。プレー中の一言を「事実→要望」で限定。終了後、言い回しと距離を相互フィードバック。

判定不一致ドリルで冷静さを養う

あえて“微妙な判定”を入れ、キャプテンだけが話すルールで再開。言語化の質と切替速度を競います。

セットプレー前の“ひと言”を定型化

各ポジションごとに3フレーズを決めて暗記。「掴みの継続見てください」「ブロックの位置OK?」など。

審判を招いての勉強会の進め方

地域の審判員に依頼し、30分の講話+30分の実演。質問は事前に集約し、テーマ別に整理すると実りが大きいです。

ケーススタディ:実戦での判断と一言

不利な判定が続く試合での対応

流れが偏る時こそ冷静に。「ここ数本、同様の接触で笛が鳴っています。基準の確認をお願いします。」ハーフタイムに1点だけ再確認。

ラフプレーが増えた場面の伝え方

「強度が上がってケガが心配です。管理をお願いします。」危険度の情報を先に置くと受け止められやすい。

若い・経験の浅い審判のゲームで配慮する点

テンポに波が出やすいので、言葉を減らし、所作で支える。再開を急がず整える協力姿勢が、結果的に自分たちに返ってきます。

地域大会・学校大会でありがちな誤解

「キャプテンは文句を言ってよい」わけではありません。特別な権利はありません。あくまで代表者として簡潔に。

よくある失敗と修正法

複数人で囲む行為をやめる仕組み

囲みは異議の典型。発話者以外は5m離れるルールを徹底。破ったら交代で一旦クールダウン。

皮肉の拍手・大げさなジェスチャーへの対処

映像で自覚→罰ではなく置換。「親指を立てる」「深呼吸して親指を胸に」の代替動作をチームで統一。

ボールを離さない・再開を遅らせる癖の矯正

遅延は警告対象。練習から「相手ボールは即地面へ」を徹底。意図しない遅延も同様に見なされます。

カード提示後の反応を標準化する

「受け止め→離れる→切替」の3動作を全員で共有。言い訳や拍手は禁止。次のプレーに集中します。

子ども年代への教え方:親と指導者のふるまい

大人の言動が子どもの基準になる

保護者・コーチの一言が子どもの振る舞いを形作ります。「審判に礼」「相手に敬意」を大人が実演しましょう。

小学生にも使える簡単フレーズ

  • 「お願い、見てください」
  • 「次、気をつけます」
  • 「ありがとうございます」

ミニゲームでの交代審判体験のすすめ

当事者として判定する体験は、審判への理解と敬意を育てます。判断の難しさを知ることが、余計な抗議の抑止に直結します。

ルールと倫理:接し方を磨く意義を言語化する

スポーツマンシップと公平性

競技は相互の信頼で成り立ちます。審判も選手も完璧ではない。だからこそ礼節がゲームを支えます。

人数不利がもたらすリスクと回避思考

異議や遅延でのカードは“防げた退場”になり得ます。プレー以外で人数不利を作らないことは、勝利の前提条件です。

“勝つために礼節を選ぶ”という戦略

礼節は理想論ではなく実利。判定の品質、再開の速さ、相手のフラストレーション管理、すべてが勝率に影響します。

チェックリスト:試合前・試合中・試合後

試合前に揃える言葉と所作

  • 窓口(主に話す選手)を共有
  • 注視してほしいポイントを1〜2点
  • 副審にも礼を尽くした挨拶

試合中に守る3原則

  • 1人・1回・5秒
  • 事実→要望の順
  • 距離1.5〜2mで走路を空ける

試合後に残すログ

  • 判定の傾向(基準)
  • 成功した言い回し・失敗した言い回し
  • 次戦に試すフレーズ

FAQ:よくある質問

キャプテンだけが話すべき?

基本はキャプテンが窓口。ただしプレー最中の安全確認などは最寄りの選手が短く伝えてOK。役割分担を事前に決めましょう。

英語・簡易フレーズは通じる?

「Ref」「Please watch holding」「No hands」「From behind」などは通じやすいですが、日本語で丁寧に伝える方が誤解は少ないです。

いつ謝るのがベスト?

カードや注意を受けた直後。「了解です。次、気をつけます。」の一言で十分。早い謝意はその後の裁量に良い影響を与えやすいです。

映像確認を依頼してよい?

VARのない試合では不可。試合中の映像確認要求はゲームを不必要に止めます。試合後にチームで検証しましょう。

まとめ:審判への接し方はチーム戦術の一部

今日から変えられる最小アクション

  • 1人・1回・5秒・1.5m
  • 事実→要望のテンプレート化
  • 皮肉ゼロ、未来志向

次の試合までの宿題

  • ポジション別に“ひと言”を3つ暗記
  • セットプレー時の事前確認フレーズを統一
  • LOTGの「異議・遅延・審判の権限」を読み合わせ

言葉と所作は、プレーの一部です。審判を味方にするのではなく、審判とともに試合を整える。礼節は、勝つための合理的な戦略です。

参考ガイド:LOTGで確認しておきたい条項

反スポーツ的行為と異議

Law 12(ファウルと不正行為)に、異議による警告、侮辱的な言動による退場、反スポーツ的行為、遅延行為などが整理されています。

再開の妨害・遅延

Law 12に、ボールを離さない、再開を妨げる、距離を取らないなどの警告事由が記載。日常の癖で違反になりがちな部分です。

審判員の権限と責任

Law 5(主審)に、試合の管理、懲戒の権限、他の審判員との協力が明記。副審・第4の審判の役割はLaw 6で確認できます。

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