「DOGSOとは?わかりやすく境界線と対処法」をテーマに、審判の考え方と選手が試合で取るべき行動を整理します。決定的な得点機会阻止(Denial of an Obvious Goal-Scoring Opportunity)はカードの色や数的不利に直結し、勝敗を左右します。4つのDという判断軸を中心に、“どこまでが許される守備か”“退場と警告の線引きはどこか”を、プレー現場で使える言葉でまとめました。
目次
DOGSOとは?わかりやすい導入と重要性
なぜ今DOGSOを学ぶべきか
DOGSOは一度の判断ミスが試合を壊しうるテーマです。守備側は不必要な退場を避けるために、攻撃側は決定機を最大化するために、基準を知っておく価値があります。最近はVARの導入もあり、細部の基準がより可視化されています。「なんとなく危ない」から「ここまではOK、これはNG」へ。線引きを言語化して共有しましょう。
この記事のゴールと読み方
本記事のゴールは3つです。1) 競技規則でのDOGSOの位置づけを理解する、2) 4つのD(距離・方向・支配・守備者)で判断できるようになる、3) 実戦での対処法を身につける。ルール→基準→ケース→対処の順に進み、最後にチェックリストで復習します。
競技規則の前提知識:どこに何が書かれている?
該当条文の位置づけ(競技規則ロー12:反則と不正行為)
DOGSOはIFAB競技規則(Laws of the Game)のロー12「反則と不正行為」に記載されています。大きく2系統です。1) ハンドの反則でゴールまたは決定的な得点機会を阻止した場合、2) 相手がゴール方向へ向かう明白な決定機を、フリーキック(直接・間接)で罰せられる反則によって阻止した場合です。
近年の改正ポイント(いわゆるトリプル・パニッシュメント緩和)
2016年以降、ペナルティエリア内で「ボールへの正当な挑戦」でDOGSOが起きた場合、退場(レッド)ではなく警告(イエロー)となる緩和が導入されました。PK+イエローで、PK+レッド+出場停止の“トリプル”は基本的に避けられます。ただし、ホールディング・プッシング・引っ張り、ハンドの反則、過度な力の使用や危険なタックルなどは緩和対象外です。
用語整理(DOGSO/SPA/ハンドリング/正当な挑戦)
- DOGSO:明白な決定機の阻止。退場または警告の対象。
- SPA:有望な攻撃の阻止。通常は警告。
- ハンドの反則によるDOGSO:GKの自ペナルティエリア内を除き退場。
- 正当な挑戦(genuine attempt to play the ball):ボールを奪う意図が明確なプレー。PA内DOGSOがイエローに緩和される条件。
DOGSOの定義と判断基準:4つのDを理解する
距離(ゴールまでの距離)
ゴールに近いほど決定機は明白になります。ペナルティエリア付近やPA内は「距離」の条件を満たしやすい一方、ミドルサードでは他要素が強く後押ししない限りDOGSOになりにくいです。
方向(プレーの進行方向)
前進しているか、特にゴール方向へ向かっているかが重要。斜め気味でも、実質的にゴールへ向かうプレーであれば要件を満たすことがあります。タッチライン方向へ流れ続ける場合は明白性が弱まります。
支配(ボールをコントロールできる可能性)
次の一歩で触れるか、プレー続行で支配を回復できるか。ロングタッチでコントロールが難しい、ボールがGK有利の速度で転がる、跳ね上がって不確実——こうした要素は“明白性”を下げます。
守備者(位置と人数:他のDFやGKの影響)
残っている守備者の位置・距離・角度。シュートブロック可能か、カバーの可能性はあるか。GKのポジションもここに含まれます。カバーが現実的ならDOGSOではなくSPA評価に寄りやすいです。
補足要素(反則の種類・接触の程度・競技者の速度)
4Dを骨格に、反則の形(非挑戦の引っ張り等か、挑戦型のタックルか)、接触の強さ、双方の速度・視野も合わせて判断します。あくまで“機会の明白性”が中心です。
退場か警告か:カード色の境界線を正確に知る
ペナルティエリア外でのDOGSOは原則どうなるか
PA外で明白な決定機を反則で止めた場合、原則は退場です。再開は直接フリーキック(反則の種類に応じて間接FKの場合もあり)となります。
ペナルティエリア内の『ボールへの正当な挑戦』がある場合
PA内で正当な挑戦による反則でDOGSOになったときは、PK+警告が原則(緩和適用)。タックルやチャレンジにボールを奪う意図があり、危険・無謀・過度な力に当たらないことが条件です。
ホールディング・プッシング・引っ張りの扱い
これらの非挑戦型反則は緩和対象外。PA内であってもDOGSOなら退場です。ユニフォームをつかんで倒す、腕で抱え込む等はレッドのリスクが高い行為です。
ハンドによるDOGSOの基準
ハンドの反則によってゴールまたは明白な決定機を阻止した場合は退場(GKが自陣PA内で手を使う場合を除く)。PA内外を問いません。再開は反則地点に応じたFKまたはPKです。
アドバンテージ適用時の処置と再開方法
主審がDOGSOに対してアドバンテージを適用し、結果として得点が入った場合、犯した競技者は退場ではなく警告(不正行為)となります。得点に至らなかった場合も、通常は警告にとどまります。再開はプレー結果に従います(得点ならキックオフ)。
DOGSOと混同しやすい反則の違い
DOGSO vs SPA(有望な攻撃の阻止):どこが違う?
SPAは「チャンスが有望」レベル、DOGSOは「ほぼ得点間近で明白」。4Dのいずれかが弱ければSPA評価に寄ります。SPAは基本警告、DOGSOは退場(条件により緩和で警告)。
DOGSO vs 著しく不正な行為・過度な力の使用
過度な力の使用や相手の安全を脅かすタックルは、DOGSOか否かに関係なく退場対象です。つまり「危険なタックル」自体でレッド、さらにDOGSOでもレッドの二重理由となり得ます。
オフサイド関与とDOGSO:ボールにプレーできる可能性の評価
攻撃者がオフサイドポジションでも、まだ「オフサイドの反則」が成立していない時点でDFがファウルを犯せば、先に起きたファウルが優先され、DOGSOの評価対象になり得ます。一方、すでにオフサイドの反則(プレーへの関与等)が成立していれば、決定機は“合法的には存在しない”ためDOGSOにはなりません。
ケーススタディ:境界線を見極める具体例
斜めの突破でDFが並走する場面:『方向』の評価
角度がやや外でも、次のタッチで中央へ持ち出せるなら「方向」は満たしやすい。逆に、タッチラインへ流れ続ける形なら明白性は下がり、SPAどまりになりやすいです。
ルーズボールへの競争とGKの位置:『支配』の可能性
スルーパスに追いつける現実性、GKが先に触れる距離感、ボール速度。オフェンスがワンタッチでシュート可能な位置なら「支配」の要件は強い。重いタッチでボールが流れていればDOGSOの成立は難しくなります。
PA内のタックルでPK成立時:カード色の判断
ボールに行く正当な挑戦ならPK+警告。無謀・危険・過度な力、または足裏で突っ込む等はDOGSOの有無に関わらず退場の可能性があります。
ユニフォームを引っ張る・抱える行為:非挑戦型反則の結果
PA内で明白な決定機を引っ張りで止めたら退場。PA外でも同様です。ボールに行っていないため緩和はかかりません。
GK以外の競技者のハンドでシュートを防ぐ場面
ゴールへ向かうシュートを腕・手で阻止した場合、原則退場。ゴールライン上のブロックは典型例です(GKの自PA内は例外)。
オフサイドポジションの相手へのファウル:DOGSO成立の可否
攻撃者がまだボールに関与していない段階でファウルすれば、先のファウルを優先し得ます。4Dが満たされていればDOGSO成立の可能性あり。すでに関与が成立してオフサイドが先ならDOGSOは成立しません。
VARとDOGSO:判定が変わるポイント
介入基準(明白かつ重大な誤り/重大な見逃し)
VARは主に「直接退場相当」「PK」「得点」に関わる場面で介入します。DOGSOの色やPKの有無が明白に誤っている場合にレビュー対象となります。
映像で重視される要素(4Dの客観指標)
- 距離:反則地点とゴールの位置関係
- 方向:身体・ボール・走路の向き
- 支配:次のタッチ可能性、ボール速度
- 守備者:カバーDF/GKの角度と距離
選手ができる対処(抗議よりリスタート集中)
VARがある試合では過度な抗議は意味が薄いです。キャプテンが短く事実確認し、チームは即座にリスタートへ集中するのが実利的です。
実戦対処法:守備側が境界線を越えないために
体の向きとスピード管理で『方向』を外へ誘導する
正面衝突を避け、外へ誘導。半身の姿勢で相手の利き足側を締め、縦ズレで射程をずらします。
遅らせる守備で『距離』を伸ばす
一発で奪いに行かず、バックペダルで間合いを作る。1秒遅らせればカバーが戻り「守備者」要素が変わります。
ボールへの正当な挑戦を明確に示すフットワーク
足先ではなく面で当てる、軸足の位置を低く、接触はボール優先。手は広げず、肩・胸でラインをキープします。
ホールディング・抱え込みを避ける意思決定
腕で止める発想は禁物。並走時は肩の接触をコントロールし、手の位置を審判から見えやすく保ちます。
戦術的ファウルの適切なエリアとタイミング
ミドルサードでカバーが複数いる状況ならSPAで済む可能性が高い。一方、中央・最後ライン背後での戦術ファウルはDOGSO直行の危険帯です。
実戦対処法:攻撃側が有利に進める工夫
決め切る優先順位と無理な接触回避
決定機ではまずゴール。接触をもらう発想より、シュート角度の確保や一歩早いタッチでGKを外す選択を優先します。
接触時の自己防衛と倒れ方のリスク管理
接触を受けた際は体を守りつつ、過度な誇張は避ける。安全第一で、次のプレー可能なら続行が得点につながります。
審判に伝わる走路・タッチの置き所(支配の明確化)
次に触れる明確なタッチ、ゴール方向の走路を示すことで「支配」「方向」の要件が明快になります。判断を自らクリアにしましょう。
GKの判断基準:セービングとスイーパーのリスク管理
アングルを詰めるステップワークと手足の使い方
一直線に突っ込まず、角度を狭める小刻みステップ。ブロッキングは面を大きく、腕は相手をつかまない位置へ。
『正当な挑戦』を示すためのコンタクトコントロール
先にボールへ触れる意図を示し、体当たりではなくボールを遮る軌道で。無謀なスライディングは避けます。
ペナルティエリア外の対応(飛び出し判断とDOGSO回避)
PA外でのハンドはDOGSOの退場リスクが高い。足でクリア、頭でのブロック、距離判断を徹底し、手は使わない選択肢を準備します。
学校・育成年代への指導ポイントと安全配慮
安全第一の接触技術とスピードコントロール教育
加速は簡単、減速は難しい。ブレーキの技術、体の入れ方、手の置き所を早期に習得します。
審判へのリスペクトと感情コントロール
判定は変わらない前提で、切り替えのスイッチを共通言語化。「OK、次」などの合図をチームで統一すると効果的です。
保護者・指導者が共有すべきDOGSOの基礎知識
PA内の正当な挑戦なら警告に緩和、非挑戦・ハンドは退場——このシンプルな軸をまず共有すると混乱が減ります。
よくある誤解とFAQ
『最後のDFなら必ずDOGSO?』への回答
「最後のDF」は一要素に過ぎません。4Dの総合で明白かどうかを判断します。角度・距離・支配が弱ければSPAです。
ボールに触れていなくてもDOGSOになるのか
なります。ホールディングやプッシング、進路妨害などボール非接触でも明白な決定機を止めればDOGSOです。
アドバンテージ適用後のカードはどうなる?
アドバンテージで得点が入れば警告(不正行為)。得点に至らなくても、原則は警告。再開はプレー結果に従います。
PKと退場は同時に必ず起こる?(緩和の理解)
必ずではありません。PA内で正当な挑戦ならPK+警告が原則。非挑戦(引っ張り等)やハンド、危険なタックルは退場です。
練習メニュー例:境界線感覚を磨くドリル
1対1チャンネル守備(方向外しの習得)
幅8〜12mのレーンで1対1。守備は常に外へ誘導、腕を使わないで進路を限定。攻撃はゴール方向のタッチを明確に。
2対1遅らせトレーニング(距離の管理)
カウンター状況を再現。守備は最初の2秒で遅らせることを目標化し、カバーが戻るまでの時間を稼ぐ。
DFとGKの連携でスルーパス対応
裏へ出たボールに対し、DFは走路を外へ、GKは角度を詰める。手は使わずにクリアする選択肢を反復。
審判役を配置した状況判断スクリメージ
練習内に審判役を置き、DOGSO/SPAの宣言と根拠を口頭で共有。4Dを言語化する習慣を作ります。
試合運びとコミュニケーション術
ファウル直後の言動とカードへの影響
即時の謝意と冷静な態度は、無用な追加制裁を避ける助けになります。感情的な抗議はリスクしかありません。
主審との情報共有(簡潔・冷静・敬意)
「正当な挑戦でした」「ボールに先に触れています」など事実ベースで短く。判断の最終権は主審にある前提で話します。
キャプテンの役割とチーム内の声かけ
交渉はキャプテンに一本化。周囲は下がり、次のリスタートの配置へ。役割分担で無駄を省きます。
まとめ:4Dを合言葉に、境界線を越えない
4Dを即断できるチェックリスト
- 距離:ゴールとの距離は明白に近いか?
- 方向:進行はゴールへ向かっているか?
- 支配:次の一歩でプレーできるか?
- 守備者:現実的なカバーは残っていないか?
守備・攻撃・GKそれぞれの3原則
- 守備:外へ誘導/遅らせる/手を使わない
- 攻撃:決め切る/支配を明確に/無理な接触回避
- GK:角度を詰める/正当な挑戦を示す/PA外で手を使わない
明日から実践するための短期アクションプラン
- 今日の練習で4Dを声に出す(「距離OK?方向OK?」)
- 1対1の外誘導ドリルを10分導入
- 次の試合でキャプテンのコミュニケーション手順を事前確認
DOGSOは“運”ではなく“準備”で避けられます。4Dという物差しを共有して、境界線を越えない守備と、明白性を高める攻撃をチーム全体で磨いていきましょう。