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アディショナルタイム とは、加算の仕組みと賢い戦い方

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試合が終盤に差しかかると、ベンチもピッチも一気に“時間”を意識します。スコアを守る、追いつく、勝ち切る。目的はそれぞれでも、鍵を握るのはアディショナルタイムの正しい理解と運用です。本稿では、「アディショナルタイム とは、加算の仕組みと賢い戦い方」を、ルールと実践の両面からわかりやすく整理します。今日からの試合運用にそのまま使えるチェックリストまでまとめています。

アディショナルタイム とは?用語の整理と基本概念

ロスタイムとの違いと言い換えの歴史

一般に「ロスタイム」と呼ばれてきた時間は、現在は「アディショナルタイム(追加時間)」と表現されることが増えています。意味するところは同じで、プレーが止まって失われた分を、各ハーフの終わりに追加してプレーする時間のこと。国際的には「Allowance for time lost(失われた時間の補填)」という考え方が基本にあります。呼び方は変わっても、本質は“止まっていた分を返す”という発想です。

延長戦との違い(90分+αと延長30分の区別)

アディショナルタイムは、前後半それぞれの45分に加算される「45分+α」です。一方、延長戦は90分で勝敗がつかない場合に行う「15分×2=30分」の追加時間。両者は目的も位置づけも別物です。リーグ戦では延長戦自体が存在しないことも多く、トーナメントでも大会規定によって延長戦の有無や方式が異なります。

IFAB競技規則における位置づけ(時間の補填という考え方)

競技規則では、アディショナルタイムは主審が「失われた時間」を補填するために決定します。対象は交代、負傷対応、時間の浪費、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)のチェックやレビュー、得点後のセレブレーションなど。第四の審判が掲示する数字は主審の判断にもとづく「最小値」であり、さらに延ばすこともあります。最終決定者は主審です。

加算の仕組み:何がどれだけ時間を生むのか

主な加算要因(交代・負傷対応・時間の浪費・VAR・得点後のセレブレーションなど)

  • 交代:選手交代の手続きやピッチ外への移動に伴う停止。
  • 負傷対応:状況確認、担架の入場、ピッチ外での治療への移動など。
  • 時間の浪費:再開を不当に遅らせる行為、ボールの保持による不当な遅延など。
  • VAR:チェックやオンフィールドレビューに要した時間。
  • 得点後:セレブレーション、再開の準備にかかる時間。
  • その他:ボールの入れ替え、用具不備の解決、外的要因による中断など。

どれくらい加算されるかは状況次第ですが、得点後や交代は「数十秒〜1分前後」になることが多く、複数回重なると合計は大きくなります。VAR対応や負傷の程度次第ではさらに伸びます。

第四の審判が掲示する数字は“最小値”である

掲示された「+5」のような数字は“最低でも5分”という意味です。アディショナルタイム中にさらに中断があれば、その分も上乗せされる可能性があります。逆に、掲示より短く終わることもあり得ます(追加時間中に“失われた時間”がほとんど発生していない、もしくは主審の裁量で終了が妥当と判断された場合など)。

前半と後半での加算の考え方

前半・後半は独立しており、それぞれにアディショナルタイムが設定されます。前半の少ない時間が後半に繰り越されることはありません。前半のアディショナルタイムが短く感じられる試合でも、後半は交代や得点、VARが重なり長くなる、というケースはよくあります。

ワールドカップ以降の厳格化と背景(より実プレー時間へ)

近年、国際大会を中心に「実際にボールが動いている時間(実プレー時間)」を確保するため、アディショナルタイムの算定がより厳密になってきました。特に得点後や交代、VARなどを丁寧に積み上げる方針が強まり、その結果として“長く感じる”終盤が増えています。リーグや大会によって運用の濃淡はありますが、全体として「止まっていた分は返す」という原則が徹底されつつあります。

学校・地域大会での運用差と注意点

学校や地域大会では、第四の審判がいなかったり、掲示板がないこともあります。その場合でも主審が時間管理を行い、必要な補填をします。飲水タイムの有無や交代ルールなど、大会規定に差があるため、事前に確認しておくことが重要です。掲示がない分、ベンチは“どのくらい時間が失われたか”を自分たちで把握しておきましょう。

審判の判断が決まる流れとチームができること

主審・副審・第四の審判の役割分担

  • 主審:時間管理の最終責任者。加算の決定を行う。
  • 副審:プレー進行や事実確認をサポート。遅延や負傷の状況も共有。
  • 第四の審判:交代手続きの管理、掲示板での表示、失われた時間の記録サポート。

加算は主審が決めますが、第四の審判が積極的に時間要因をメモし、それを共有するのが一般的です。

記録とコミュニケーション:ベンチが把握すべき情報

  • 得点・交代・VAR・負傷で止まった時刻(ベンチの時計でOK)。
  • 飲水やクーリングブレイクの実施有無と長さの目安。
  • 相手の遅延行為が続く場合の“事実”の蓄積(冷静に、主審へ適切に伝達)。

感情ではなく記録で会話するチームは、不必要な衝突も減り、審判からの信頼も得やすくなります。

クーリングブレイク/飲水タイムの扱い

高温時などに実施される飲水・クーリングブレイクで止まった時間は、原則として補填対象です。大会規定により実施の有無や長さが定められている場合があるため、事前確認を。実施が決まっているなら、ベンチは“次の再開の型”を即座に共有し、リスタートを有利にしましょう。

ルールで知っておきたい境界線

遅延行為(再開の遅延・ボール保持)のOK/NGライン

  • OKの例:コーナーフラッグ付近でボールを守るなど、正当な範囲での保持(ボールにプレー可能な距離があり、反則的な押さえ込みがない)。
  • NGの例:フリーキックやスローインの再開を不当に遅らせる、ボールを蹴り飛ばす、相手の再開を妨げる、キーパーが不当に長く保持するなど。遅延は警告(イエローカード)の対象になり得ます。

“賢い時間の使い方”と“反則的な遅延”は紙一重。プレーの意図と方法が重要です。

負傷者対応とピッチ外での治療が与える影響

原則として軽度の負傷はピッチ外での治療が求められます。担架の入場や退出、治療のための移動は補填の対象。なお、重傷やゴールキーパーに関わるケースなどでは例外的にピッチ上での対応が認められることがあります。

PKが与えられた場合の“時間延長”の扱い

ハーフ終了間際にPKが与えられた場合、時間は延長され、キックが完了するまで行われます。キックの結果(ゴール、GKのセーブ、枠外など)が確定した時点でハーフは終了。通常のプレー継続(リバウンドへの追撃など)はありません。

スコア状況別:アディショナルタイムの賢い戦い方

リードしているとき:リスク管理と“時間の質”を上げる

  • ボールの置き所:中盤の内側よりもサイドへ。奪われても即失点に直結しにくいエリアで管理。
  • 再開の整理:スローインやFKは味方の準備を待ってから。反則的な遅延は避けつつ、確実な再開を。
  • ファウルマネジメント:危険地帯での無用なファウルは避ける。前向きにさせない“遅らせる守備”。
  • セットプレー:攻めのCKは蹴り方を選ぶ(ニアで短くキープ、ショートコーナー)。カウンターケアを徹底。

ビハインドのとき:テンポアップと素早い再開

  • 即時リスタート:スローインやFKは最短で。マルチボール運用なら近いボールを活用。
  • リスクの段階付け:最後列の人数は“1人減らす”など、失点リスクと得点期待のバランスを設計。
  • セットプレー強化:ロングスロー、速いFK、二次攻撃までの配置を事前に決めておく。
  • GKの活用:残り1分など終局では、CKにGKを上げる判断も選択肢。ベンチから合図を一本化。

ドローのとき:勝点マネジメントか勝ち越し狙いかの判断軸

  • 大会状況:勝点1が意味を持つのか、勝ち切りが求められるのか。
  • 相手と自分の疲労度:相手の脚が止まっているならリスクを取る価値が上がる。
  • カード状況:累積や退場リスクが高いなら、無理なプレッシャーを控える選択も。

ポジション別の具体策

GKと最終ライン:配球・ライン設定・時間の使い方

  • GK:リード時は安全なサイド配球で高さを外す。ビハインド時は素早い再開(短いゴールキックやクイックスロー)。
  • CB:ラインコントロールで相手の背後狙いを制御。切り替えでのファウルは位置と質を選ぶ。
  • SB:終盤はプレッシングのスイッチ役。タッチラインを“第2のDF”として使い、縦を限定。

中盤:ゲームテンポの調整とファウルマネジメント

  • リズム制御:リード時はワンタッチを混ぜて相手の出足を空振りさせる。ビハインド時は縦パスの本数を増やす。
  • 戦術的ファウル:カウンターの芽を摘むなら素早く、ペナルティエリア手前やカードリスクは避ける。
  • セカンド回収:弾き返しの落下点に先回り。終盤はここでの“先手”が勝敗を分ける。

サイドとFW:プレス強度、コーナーフラッグの活用、ロストのリスク管理

  • プレスの波:時間帯で強弱をつける。アディショナルの最初と最後で一段ギアを上げる設計。
  • コーナーフラッグ活用:リード時はサイド深くでの保持も選択肢。ただし反則的なキープはNG。
  • ロスト管理:中央での背負いは避け、逆サイドの安全地帯へボールを運ぶ。

セットプレー:蹴り方の選択と守備配置の即応

  • 蹴り方:勝ち切りたい時はニアでの触り優先、追う時は密度で押し込む配球。
  • 守備:相手GKが上がる場合のマークルールを事前合意。クリア後のシュートカウンターも狙い目。

交代とベンチワーク:時間は減らないが、流れは変えられる

終盤の交代で狙う効果(リズム断ち・守備強化・カウンター)

  • リズム断ち:相手の波を切る。
  • 守備強化:空中戦やセカンドボールへの反応強化。
  • カウンター:フレッシュなスプリンターで背後を突く。

交代自体はアディショナルタイムに加算されます。時間は減りませんが、ゲームの“流れ”は大きく変えられます。

交代ウインドウと残り時間の戦略設計

多くの大会で、試合中の交代回数に加え「同時に交代できる機会(ウインドウ)」が制限されています(ハーフタイムは別枠のことが多い)。ウインドウを使い切るタイミングと、アディショナルタイムの見込みをセットで設計しましょう。追う側はウインドウを残して“最後の一押し”、守る側は終盤の“難所の前”にスイッチを。

第四の審判との情報共有とシグナルの運用

熱くなりすぎず、必要な情報を簡潔に。交代の準備が整ったら即座にボードへ。アディショナルタイム掲示後は、ピッチ内へ「残り時間の目安」「狙いの再確認」を明確な合図で伝達します。

VAR・カードに強くなる:混乱を避ける実務知識

VARチェック/オンフィールドレビュー中のチーム対応

  • 整理:スタッフは事実だけを伝え、選手は体力回復とリスタート配置に集中。
  • プランA/B:判定が覆る・覆らないの両パターンで直後のプレーを準備。
  • キッカーと守備陣の役割再確認:再開の種類(ドロップボール、FK、PKなど)に即応。

抗議で失う時間とカードリスクを減らす

集団での過度な抗議はカードリスクを高め、結局チームの損になります。キャプテンを中心に、伝えるべき事実のみを冷静に。アディショナルタイムは“返っては来る”ので、抗議に費やすほど終盤の消耗が増えるだけです。

戦術的ファウルの是非と終盤のリスク評価

“ここで止める”は時に必要ですが、位置・人数・カード状況を瞬時に判断。ペナルティエリア付近、カウンターで最後方、DOGSO(決定的な得点機会の阻止)に該当する場面は代償が大きくなります。チームとして事前にラインを決めておくと、迷いが減ります。

トレーニングで作る“終盤対応力”

90分+αに耐える反復スプリントと回復能力

終盤は“止まる—走る”のメリハリが極端になります。短い距離の反復スプリントと、30〜60秒の回復を繰り返すメニューを週内に配置。試合強度での心拍変動に身体を慣らしましょう。

タイムマネジメントを組み込んだ実戦ドリル

  • 残り5分ゲーム:スコア状況を設定(1点リード/ビハインド/同点)して勝ち切り・追いつきの型を反復。
  • セットプレー連続:CK→スロー→FKの“二次・三次攻撃”まで連なる想定。
  • クイックリスタート訓練:ホイッスル後3秒以内に最初のパスが出る基準を全員で共有。

集中力の持続とメンタル・ルーティン

アディショナルタイム直前に“合言葉”を入れる、判定中は呼吸法で心拍を落とす、次の1プレーだけに焦点を当てる——こうしたルーティンは、終盤の凡ミスを減らします。

交代直後でも即戦力になる準備(ウォームアップと情報共有)

終盤投入の選手ほど“次の役割”を具体的に。サイドでの受け方、セットプレーの担当、守備で捕まえる相手。ウォームアップは心拍を上げ、切り替えダッシュを数本。“入って1プレー目”の質を最大化します。

よくある疑問Q&A

なぜアディショナルタイムが長くなったと感じるのか?

得点後・交代・VAR・負傷対応など、止まっている時間を丁寧に積み上げる方針が強くなったためです。実プレー時間の確保が背景にあります。

掲示より短く終わることはある?“最小値”の正しい理解

あります。掲示は最小値です。アディショナルタイム中に新たな中断がなければ、掲示より短く終わることもあります。逆に、新たな中断があれば掲示より長くなることもあります。

アディショナルタイム中の得点後はさらに加算される?

原則として、アディショナルタイム中であっても得点後に要した時間は補填対象です。残り時間が少ないほど、主審はその分を上乗せする可能性があります。

テレビ中継やキックオフ時刻との関係で知っておくこと

放送スケジュールは試合運用とは独立です。アディショナルタイムは競技規則にもとづき決まります。視聴者としては終了時刻が伸びることがありますが、競技上は“止まっていた分を返す”だけです。

まとめ:アディショナルタイムを味方にするためのチェックリスト

ルール理解の要点

  • アディショナルタイムは「失われた時間の補填」。掲示は“最小値”。
  • 延長戦とは別物。前半と後半は独立。
  • PKは時間延長して実施、結果確定で終了。

スコア別・ポジション別の合言葉

  • リード:安全地帯で管理/カウンターケア/反則的遅延はしない。
  • ビハインド:即時再開/セットプレー二次攻撃/ギアを一段上げる。
  • ドロー:大会状況で判断/疲労とカードを勘案。
  • GK・DF:配球はサイド優先/ラインで制御。
  • MF:テンポを握る/セカンド先取り。
  • FW・サイド:プレスの波/ロスト回避/旗付近の正当な保持。

当日の試合運用で即使える行動指針

  • ベンチで“止まった時間”をメモする(得点・交代・負傷・VAR)。
  • クイックリスタートの役割分担を明確に(キッカー、ボールボーイ連携の声かけ)。
  • アディショナル掲示直後に合言葉で再確認(守る/攻めるの型)。
  • 抗議はキャプテン一本化。事実を短く。余計な消耗を避ける。
  • 交代は“流れを変える意図”を先に決めてから行う。

あとがき

アディショナルタイムは、テクニックよりも“準備と意思決定”が結果を左右する時間です。ルール理解で迷いを消し、合言葉で全員の視界をそろえる。最後の数分をデザインできるチームは、1シーズンで積み上がる勝点が確実に変わります。次の試合、残り5分の練習から始めてみてください。

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