「出た? まだ入ってる?」――ライン際の判定は、試合の流れも勝敗も左右します。結論はシンプルですが、現場で迷わないためには“どのラインを、どの視点で、いつ判定するか”を身体に落とし込むことが大切です。本記事では競技規則に基づく基準を土台に、実戦で起こるグレーな場面を整理。テクノロジーの助け方、審判の見方、練習での落とし込みまで、ライン際を武器にするための実用ガイドとしてまとめました。
目次
結論:ボールアウトとインプレーの違いを一言で
判定の核心は「ボール全体がラインを越えたか」だけ
ボールアウト(アウトオブプレー)かインプレー(ボールが入っている)かの核心は、ボール全体が完全にラインを越えたかどうか。少しでもラインにかかっていればインプレーです。これは地面に接しているかどうかに関係なく、空中でも同じです。
対象ラインはタッチラインとゴールライン(線上はフィールドの一部)
判定の対象はタッチラインとゴールライン。白線はフィールドの一部なので、線上=インプレーです。エリアライン等の話ではなく、あくまで外周の境界線についての判定です。
空中でも地上でも同じ基準が適用される
ボールが浮いていても、ボール全体が外側に抜けていなければインプレー。空中で曲がる、バウンドするなどの動きがあっても基準は不変です。
ボールアウト(ボールが出た)とは?
定義:ボール全体がタッチラインまたはゴールラインを完全に越えた状態
ボールアウトは、ボール全体がタッチラインまたはゴールラインの外側に完全に出たときに成立します。どれだけ大きくはみ出して見えても、真上から見て線と重なりが残っていればインプレーです。
出た瞬間と時計(プレー時間)の扱い
ボールが完全に外へ出た瞬間にプレーは停止します。時計は原則として流れますが、アディショナルタイムで調整されます。出た後の接触やシュートは無効です。
外へ出た原因が誰かと再開方法の関係
誰が最後に触れたかで再開が決まります。タッチラインを越えたらスローイン、ゴールラインを攻撃側が最後に触れて越えればゴールキック、守備側が最後ならコーナーキックです。
インプレー(ボールが入っている)とは?
線上に少しでもボールがかかっていればインプレー
「ボールの投影の一部が白線と重なっているか」で判断します。わずかな“かかり”でもインプレー。ラインの外側に体が出ていても、ボールがインならプレー可能です。
空中でラインを越えていなければインプレー
空中でカーブしても、ボール全体が線外へ抜けていなければインプレー。空中で一度完全に外へ出てから戻ってきた場合は、その時点でアウトです。
立っているコーナーフラッグやゴールポストに触れてもインプレーのケース
コーナーフラッグポスト、ゴールポスト・クロスバーはフィールドの一部。これらに当たってボールがフィールド内に留まればインプレーのままです。外へ出ればアウトです。
出た・入っている判定基準(競技規則に基づく要点)
ラインはフィールドの一部(白線上=インプレー)
境界線はフィールドの一部。白線に触れていれば「入っている」扱い。線幅の太さは競技規則で上限があり、どの幅でも“線上=イン”は不変です。
接地は不要:空中でもボール全体が越えたかで判定
地面への接地は判定条件ではありません。判定は常に「真上から見たボール全体とラインの重なり」で決まります。
ゴールポスト・クロスバー・コーナーフラッグに当たった場合の扱い
これらはフィールドの一部なので、跳ね返ってインに残れば続行。外に出ればアウト。コーナーフラッグが折れて倒れた場合は外的要因となるため、原則プレーを止めて復旧後にドロップボールで再開します。
オブストラクションや接触とボールアウトの優先順位
ボールが完全に外へ出た瞬間にプレーは止まっているため、その後の接触は「反則」ではなく不正行為(退場・警告の対象)として扱われます。逆に、接触による反則がアウトより先に起きていればファウルが優先し、その反則に応じた再開(直接・間接FKやPK)になります。
副審の旗と主審の最終判定の関係
副審はタッチライン・ゴールラインと一体で観る役割。旗は合図であり、最終決定は主審です。プレーは笛で止まります。旗が上がっても笛が鳴るまで続ける意識が重要です。
具体例で理解する:『出た』『入っている』の境目
真上からは入っているが斜めからは出て見える錯覚
観客席やタッチライン側から斜めに見ると、パララックス(視差)で外に見えがち。判定は真上の投影で行うため、現場では「線とボールの重なり」を意識しましょう。副審がラインと同一線上に立つのはこの錯覚を排除するためです。
ゴールライン上のクリア:円形の投影と“かかり”の概念
弧を描くボールの外縁が1ミリでもゴールラインにかかっていればノーゴール。ゴールはボール全体がゴールラインを完全に越えて、かつ枠内であることが条件です。
タッチライン際でのボールコントロールと判定の落とし穴
アウトに見えて足を止めると損をします。線上に少しでも残っていれば続行なので、迷ったらプレー継続が鉄則。守備側は「出る前に触る」と相手ボールのスローインになるリスクがある点も計算に入れましょう。
フィールド外から内へボールを曲げ戻したケース
クロスやコーナーで外側に大きく膨らませても、空中でボール全体がライン外に出ていなければイン。空中で一度完全に出てから戻ってきた場合はアウトになった時点でプレー終了です。
倒れたコーナーフラッグ・移動したゴールの特殊事例
コーナーフラッグが倒れたままのプレーは原則不可。安全と公平性を確保するために一度止めて復旧します。強風でゴールが動くなどの事態も同様に中断・修復が優先されます。
再開方法:判定が次のプレーを決める
スローイン:最後に触れたチームと正しい位置
タッチラインを越えた位置から、相手チームのスローイン。両足の一部がライン上または外に接地し、ボールは頭の後ろから両手で投げ入れます。違反は相手ボールでやり直しです。
ゴールキック/コーナーキックの判断ポイント
ゴールラインを越えたボールは、最後に触れた側と枠内外に関わらず、守備側ならゴールキック、攻撃側ならコーナーキック。微妙な接触は副審の視点が鍵になります。
キックオフ・フリーキック・ゴールキックは『蹴られて明確に動いた』らインプレー
再開の多くは「ボールが蹴られて明確に動いた」瞬間にインプレー。ゴールキックもエリア外に出る必要はありません(現行規則)。
スローインは『フィールド内に入ったら』インプレー
スローインはボールがフィールド内に入った瞬間にインプレー。投げたボールがフィールド内に届かなければ相手チームのスローインになります。
ドロップボール:審判や外的要因が関与した場合の再開
ボールが審判員に当たってプレーが有利不利に大きく影響した場合(有望な攻撃の開始、直接ゴール、チームの保持が変わる)は中断してドロップボール。守備側PA内はGKへの単独ドロップ、それ以外は最後に触れた側の選手にドロップされ、他の選手は4m離れます。
オフサイドのリセットと再開位置の決まり方
ボールがアウトになればそこで一旦リセット。次の再開時点での位置関係でオフサイドが再評価されます。オフサイドの間接FKは、反則が成立した場所(干渉が起きた地点)から行います。
テクノロジーが助ける判定:GLTとVARの役割
ゴールラインテクノロジー(GLT)の仕組みと適用範囲
GLTはゴールラインをボール全体が越えたかを瞬時に判定するシステム。審判の腕時計に通知されます。適用は「得点の可否」に限られ、タッチラインの出入りには使われません。
VARは“明白な誤審”のみ介入:出た・入っているのレビューの現実
VARはゴール、PK、退場、人物誤認に限定的に介入。攻撃の起点で「出ていたか」で得点に直結する場合は見直し対象になり得ますが、通常のスローイン判定などには介入しません。
カメラ角度とパララックスによる誤解を避ける視点
テレビのカメラ角度でも視差は起こります。GLTや専用のゴールラインカメラでない映像判断は限界があることを理解しましょう。
ラインとボールの物理:見え方を左右する要因
ラインの幅とボール直径:『ボール全体』の幾何学
白線の幅は最大約12cm、5号球の直径は約22cm。上からの投影でわずかでも重なればイン。肉眼では「出たように見える」のに重なっていることが起こり得ます。
雨・風・スリッピーな芝での滑走と判定の難しさ
濡れた芝では想像以上にボールが滑ります。止まると見せて最後に外へ抜けることも。風でボールが戻るケースもあるため、最後まで追い切る習慣が重要です。
ボールの変形(インパクト時)と瞬間的な境界
強いインパクトでボールは一瞬つぶれます。判定はその瞬間の最外縁で行われ、GLTはこの変形も含めて判定できるよう設計されています。
人工芝と天然芝でのコントラスト差と見極めのコツ
人工芝は白線のコントラストが強く、天然芝は刈り跡や陰影で錯覚が起きやすい。足元の視線を下げ過ぎず、ボールとラインの“重なり”を斜め上から捉えると誤認が減ります。
審判の見方を理解する:判定を味方に
副審の基本ポジショニング(第二ラストディフェンダー/ゴールライン)
副審は通常、第二ラストディフェンダーと同一線を基準にしつつ、ボールがゴールライン付近に入ればゴールラインへスプリントして判定します。ラインと同一線上に立つことで視差を消しています。
『見えた情報』を短く伝えるコミュニケーション
「触ったのは誰か」「どこで出たか」をシンプルに伝えると、判定はスムーズ。味方同士でも「最後触った」「出てない」の合図を共有しましょう。
キャプテンを通じた冷静な確認と抗議の線引き
誤審の可能性を感じても、抗議はキャプテン経由で冷静に。感情的な抗議は逆効果です。切り替えの速さが次のプレーの精度を左右します。
プレー継続の意識:笛が鳴るまで止まらない
ライン際ほど「止まったら負け」。旗が上がっても笛までは続ける、が基本。守備側もボールアウトを期待して止まらないことが失点回避につながります。
練習メニュー:ライン際を武器にする技術
視野確保と身体の向き:サイドでの半身とファーストタッチ
サイドでは半身でラインと相手を同時に視界に入れる。ファーストタッチは内側へ置き、外へ流すとアウトのリスクが上がります。
タッチラインぎりぎりのボールコントロールドリル
タッチラインから15〜30cm内側にマーカーを並べ、その帯の中でワンタッチ・ツータッチのボールキープ。重なりを意識させる声かけで“かかり”の感覚を養います。
アウトにしないパス角度と速度の調整
サイドチェンジは外へ逃げやすいので、内側へ戻るスピンをかける・速度を抑えて味方の前に止めるなど、ラインを味方につける配球を練習します。
ゴールライン上のクリア練習(身体の入れ方と足の使い分け)
ゴールラインと平行に立ち、インステップで真上へ、インサイドでサイドへ逃がす2種類を反復。クリア後に素早くライン外へ流れない角度を作ります。
コーチ・親子でできる“判定クイズ”とミニゲーム
練習の最後に判定クイズ。ラインに重なった写真イメージを口頭で出し、「入っている/出た」を即答するミニゲームで反応速度と理解を同時に鍛えましょう。
よくある誤解と正解
『ラインに触れたらアウト』は誤り:線上はインプレー
白線はフィールドの一部。触れていればインです。ぎりぎりを狙うプレーは“線上OK”を前提に組み立てましょう。
『主審に当たったら常にドロップボール』ではない条件
当たっても、そのまま大勢に影響がなければ続行。有利不利が大きく変わるときのみ中断してドロップボールです。
『コーナーフラッグに当たったらアウト』は状況次第
フラッグポストはフィールドの一部。跳ね返って内に残ればインプレー、外に出ればアウトです。
スローインの足違反はアウトの判定ではなく反則のやり直し/相手ボール
投げ方の違反は「出た/入っている」とは別問題。基本は相手ボールでスローインになります。
GKが外側でキャッチして内側へ運ぶケースの正しい理解
判定はボールの位置で行われます。ボールがインにあるなら、GKの体が外に出ていてもプレーは可能。逆にボールが完全に外に出ていれば、キャッチして戻しても既にアウトです。また、PA外にあるボールを手で扱えば反則です(GKの位置ではなくボールの位置で判断)。
カテゴリー別の注意点(育成年代から一般まで)
ジュニア・ユース・一般でライン幅やゴールサイズは違っても基準は同じ
ピッチサイズやゴールサイズは異なっても、「ボール全体が越えたらアウト」「線上はイン」という基準は共通です。早い段階から同じ目・同じ言葉で統一しておくと混乱が減ります。
サイドの狭いピッチや仮設ラインでの注意点
仮設のテープラインや薄いラインは視認性が低い。試合前の下見でライン幅と色を確認し、ベンチからの指示も「出た/入っている」の基準を共有しておきましょう。
審判人数が少ない試合でのセルフマネジメント
副審がいない試合では誤認が増えます。選手側のフェアプレーとコミュニケーション、そして「笛まで続ける」原則がより重要になります。
最新ルールの追い方と信頼できる情報源
IFAB競技規則の改訂ポイントを見る習慣
競技規則は毎年更新の可能性があります。改訂概要と該当条文をチェックする習慣をつけましょう。細かな文言の変化が判定や再開に直結します。
国内連盟の通達・大会要項(ローカルルール)の確認
大会要項や運営通達で細部の運用が指定されることがあります。キックオフ時刻、ボール、ピッチ、審判体制など、事前情報で迷いを減らせます。
誤情報を避ける一次情報のチェックリスト
動画の切り抜きやSNSの断片情報は誤解のもと。一次情報(競技規則、公式リリース)に当たることを徹底し、複数ソースで照合しましょう。
まとめ:判定基準を理解して勝点に変える
境目の1センチを制するための思考と準備
「ボール全体」「線上はフィールドの一部」「空中でも同じ」。この3点を軸に、判定の迷いを消していくことが勝点に直結します。
ライン際の判断が戦術・時間帯の意思決定を左右する
終盤の逃げ切り、攻勢のスイッチ、時間の使い方。ライン一本の理解が、プレー選択の質を底上げします。
今日から実践できる3つのアクション
- 練習で「ラインとボールの重なり」を声に出して確認する。
- サイドの配球は“内側に戻る”スピンと角度を意識する。
- 旗が上がっても笛まで止まらない習慣をチーム全体で徹底する。
判定は運ではなく準備で奪い取るもの。基準を理解し、視点を揃え、練習で身体に刻めば、ライン際は一気にあなたの得意領域になります。