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熱中症予防の飲み物例|ピッチで倒れない補給術

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夏のピッチで倒れないために、どんな飲み物を、いつ、どれだけ飲むべきか。この記事は、熱中症予防の飲み物例と実戦的な補給術を、科学的な根拠と現場感でまとめたガイドです。電解質(特にナトリウム)と糖質の「最適ゾーン」を押さえ、体重の変化から自分の汗量を把握し、試合当日に迷わない飲み方へ落とし込みます。難しい理屈は最小限に、すぐ使える具体例とレシピ、シーン別の量の目安まで一気通貫でどうぞ。

この記事のねらい|ピッチで倒れない補給術の全体像

なぜ飲み物が勝敗を分けるのか

高温多湿下では、体温上昇と脱水が進みやすく、走行距離の減少、スプリント数の低下、意思決定の遅れにつながります。発汗で失うのは「水」だけではなく「ナトリウム(塩分)」などの電解質。電解質が不足した状態では、筋の興奮伝導や体液バランスが崩れ、痙攣や集中力低下のリスクが上がります。ポイントは、汗の“中身”に近い組成で、胃に負担をかけずに吸収できる飲み物を、タイミングよく入れること。これがプレーの質と安全を同時に守る近道です。

熱中症の発生メカニズムを補給の観点で整理する

熱中症は、体内の熱産生と放熱のバランスが崩れ、体温が過度に上がる状態。サッカーでは発汗による蒸発冷却が主な放熱手段ですが、脱水で汗がかけなくなると体温はさらに上がります。加えて、汗でナトリウムが失われると、体液の浸透圧が崩れ、血漿量(循環血液量)が減少。心拍数が上がり、皮膚と筋へ分配される血流のやり繰りが厳しくなります。つまり「水分+ナトリウム+適度な糖質」を、吸収されやすい濃度で入れることが、熱中症を遠ざける合理的な対策です。

熱中症を遠ざける基本原則

体重変化から汗量を推定するシンプル手順

最も簡単な自己データは、体重差です。

  • 1. 練習・試合の直前にトイレを済ませ、軽装で体重測定
  • 2. 活動中に飲んだ量(ml)をメモ
  • 3. 活動直後に同条件で体重測定
  • 4. 汗量(ml)≈(活動中の飲水量)+(体重減少kg×1000)−(途中の排尿量)

例:前後で−0.8 kg、飲水600 ml、排尿0なら、汗量は約1400 ml。活動時間で割ると自分の発汗速度(ml/時)が出ます。これが“自分に合う飲み量”の基準になります。

目標:体重減少を2%未満に抑える理由

体重の2%以上の減少は、心拍数上昇やパフォーマンス低下と関連します。90分前後の試合で、体重減少を2%未満にコントロールできる飲水計画が現実的目標です。汗量が多い選手は、すべてをその場で補おうとせず、前日〜当日の「先回り補給」と、ハーフタイムの濃いめ補給、終了後の“150%リプレイス”でトータル最適化するのがコツです。

水だけは危険?低ナトリウム血症のリスクと兆候

大量の水のみを飲み続けると、血中ナトリウムが薄まり「運動関連低ナトリウム血症」を招く場合があります。兆候は、頭痛、吐き気、手足のむくみ、混乱、体重が減らない(もしくは増える)のに喉が渇く等。高温下で水だけを多量に飲むのは避け、ナトリウム入りの飲料を使いましょう。異常を感じたら涼しい場所で休み、速やかに医療機関へ。

飲み物選びの科学(電解質と糖質の“最適ゾーン”)

ナトリウムの目安:20–50 mmol/L(約460–1150 mg/L)

運動時の飲料は、ナトリウム濃度20–50 mmol/Lが実用的レンジです。ナトリウム量で言うと約460–1150 mg/L。多汗・塩からい汗の選手は上限寄り、胃が弱い選手や気温が高くない日は下限寄りが目安。食塩(NaCl)換算では、1 gの食塩に約393 mgのナトリウムが含まれるため、600 mg Na/Lなら食塩約1.5 g/Lが目安になります。

糖質濃度の指針:試合中3–6%、ハーフタイム6–8%

胃から腸への移動(胃排出)は、濃度が濃すぎると遅くなります。プレー中は3–6%(30–60 g/L)の低〜中濃度で流量を確保。ハーフタイムは6–8%(60–80 g/L)で素早くエネルギー補給と電解質をまとめて実施。90分超や延長、連戦では糖質の全体摂取量(30–60 g/時、必要なら最大90 g/時まで個人適応)も意識しましょう。

胃腸トラブルを避ける“浸透圧”の考え方

浸透圧は、飲み物の中身の“濃さ”の指標。高すぎると胃もたれや腹部不快感が出やすくなります。プレー中は「薄め(等張〜やや低張)」、ハーフタイムで「やや濃いめ」でOK。果汁100%や砂糖過多の飲料は高浸透圧になりがちなので、プレー中は薄めるか避けるのが無難です。

カリウム・マグネシウムの役割と“摂り過ぎない”知識

カリウムは細胞内の主要電解質で、バランス維持に重要ですが、ナトリウムほど汗で大量に失われません。マグネシウムはエネルギー代謝に関わるものの、痙攣の即効的予防について一貫した根拠は限定的。高用量摂取は下痢の原因にもなります。まずはナトリウムと適度な糖質を正しく整えることが最優先です。

シーン別|いつ・何を・どれだけ飲むか

試合2–3時間前:5–7 ml/kg+塩分で“先回り補給”

体重60 kgなら300–420 mlを目安に、ナトリウム入り飲料で。尿が濃い場合は、さらに1時間前に3–5 ml/kgを追加。固形食は消化の負担が少ないものを選びましょう。

ウォームアップ直前:250–500 mlの仕上げ

3–4%糖・中ナトリウムの低浸透圧ドリンクを250–500 ml。暑熱時はキンキンに冷やすと体感温度が下がり、飲み進めやすくなります。

試合中(前半・ハーフタイム・後半):400–800 ml/時が目安

給水タイムとスローイン/セットプレーで小分けに。ハーフタイムは6–8%糖・中〜高ナトリウムで素早く立て直し。個人の発汗速度(前述の計算)に合わせて増減させてください。

練習・連戦時:小分けに“喉が渇く前”のルーティン化

喉の渇きは遅れたサイン。5〜10分ごとに一口ずつ。長時間練習は、糖質を30–60 g/時の範囲で確保し、電解質を切らさないこと。連戦は「前夜〜朝」の準備飲料が勝負を分けます。

終了後2–4時間:失った量の150%を塩分と一緒に戻す

体重1 kg減=約1 L損失。回復期はその1.5倍(150%)を、ナトリウムを含む飲食で。例:−1.0 kgなら1.5 Lを2–4時間でこまめに。塩分を含む食事(味噌汁、梅おにぎり等)と組み合わせると効率が上がります。

熱中症予防の飲み物例

低濃度スポーツドリンク(3–4%)の使いどころ

プレー中の主力。胃排出が速く、血中にスムーズに入ります。市販品が6%前後なら、同量の水で薄めて使う手も有効。

経口補水液(高ナトリウム)の賢い使い分け

ナトリウムが高めで、吸収設計に優れるタイプ。猛暑・長時間・多汗・痙攣傾向の選手の「ハーフタイム」「終了後」に相性良し。プレー中に多量摂取すると濃く感じる場合があるため、味覚と胃腸と相談しながら。

水+塩+糖の自作レシピ(家庭で作れる実例)

水1 Lに、食塩と砂糖を入れるだけで実用的なドリンクが作れます。詳細は後半のレシピ欄へ。

牛乳/ココアミルク:回復局面での再水和に有効

牛乳はたんぱく質・糖質・電解質を含み、再水和(水分保持)に役立つという報告があります。運動直後は300–500 ml程度を目安に。脂肪で胃が重くなる人は低脂肪・フレーバー加えで飲みやすく。

アイススラリー:猛暑時のプレクーリング手段

シャーベット状の氷飲料(アイススラリー)は体内部から冷やし、暑熱下の運動時に体温上昇を抑える手段として使われます。ウォームアップ前やハーフタイムに100–200 ml程度を素早く。

カフェイン入り飲料の注意点と上手な付き合い方

カフェインは1–3 mg/kg程度で持久系パフォーマンスに効果を示す報告がありますが、個人差が大きく、動悸・不安・睡眠悪化の副作用も。未成年は慎重に。試す場合は練習で少量から、試合では新しいことはしないのが原則です。

エナジードリンク・アルコールがNGな理由

エナジードリンクは高カフェイン・高糖の組み合わせが多く、心拍や胃腸に負担。熱中症対策としては不適。アルコールは利尿・回復遅延の原因で、未成年はそもそも不可。暑熱時は厳禁と覚えておきましょう。

自作レシピ詳細|目的別3パターン

試合中用(約4%糖・中ナトリウム)

  • 材料(1 L):
    • 水 1 L
    • 砂糖 40 g(上白糖や粉飴でも可)
    • 食塩 1.5–2.0 g(ナトリウム約590–790 mg)
    • レモン果汁 大さじ1(風味とクエン酸で飲みやすさUP)
  • 作り方:砂糖と塩を溶かし、よく冷やす。氷を入れる場合は濃度が薄まるので、やや濃いめに作って持参。

回復用(約6%糖・やや高ナトリウム)

  • 材料(1 L):
    • 水 1 L
    • 砂糖 60 g
    • 食塩 2.0–2.5 g(ナトリウム約790–980 mg)
    • お好みで少量のフルーツジュース(香りづけ)
  • 使い方:終了後2–4時間で分けて飲む。塩分を含む食事とセットに。

猛暑日の朝に(やや高ナトリウムの準備飲料)

  • 材料(1 L):
    • 水 1 L
    • 砂糖 20–30 g(2–3%)
    • 食塩 2.5–3.5 g(ナトリウム約980–1370 mg)
  • 使い方:試合3–4時間前からコップ1杯ずつ。味が濃いと感じたら、別途の水を小量足してもOK。

個人差へのフィット:ポジション・体格・汗質で調整

センターバック/ボランチ:高出力持久型の汗戦略

運動時間が長く、声出し・被接触も多い役割。中強度継続+随時スプリントで汗量が増えやすいタイプ。試合中は4%糖の低浸透圧、ハーフタイムは6–8%へ切り替え、ナトリウムは中〜やや高めに。

ウィンガー/サイドバック:スプリント反復と糖質量

高強度の加減速を反復。糖質の枯渇が早いので、プレー中の糖質3–6%を確実に回す。給水機会ごとに小口で口に運び、ハーフタイムは確実に摂取。ナトリウムは中程度を保つ。

GK:出場時間・直射日光・待機時間への対応

移動距離は短くても、直射日光と待機が体温上昇を招きます。冷やしたボトル、アイススラリーを活用。給水タイム以外でもレフェリーの許可内でこまめに。ナトリウムは中程度、量は汗量に応じて。

“塩の結晶が残る”人はナトリウム強化を検討

帽子やユニに白い結晶が残る人は、汗中のナトリウムが多い傾向。プレー中〜ハーフタイムの飲料ナトリウムを上限寄りにし、終了後も塩分を意識して戻しましょう。

未成年・保護者が知っておきたい安全ガイド

カフェインの扱い(量・タイミング・個人差)

高校生を含む未成年は、カフェインの影響(睡眠悪化・動悸・不安)が出やすい場合があります。使用するなら、練習でごく少量から。夜の試合や遠征前日は避ける、安全第一で。

学校・部活動での共有ルールづくり

  • 各自のボトルに「名前+容量+中身(濃度)」を明記
  • WBGT・気温・湿度に応じて、練習時間の短縮や休憩を柔軟に設定
  • 給水タイムは「とりあえず一口」ではなく「決めた量」を必ず飲む

危険サインの見分け方と受診の目安

めまい、吐き気、意識がもうろう、歩行不安定、痙攣、体温が下がらない等は要注意。涼所で休ませ、衣服をゆるめ、冷却(首・脇・鼠径部)とナトリウム入り飲料。改善が乏しい、意識障害がある場合は救急要請を検討してください。

実践テンプレート|今日から使える補給プラン

試合日の時系列プラン(起床〜就寝)

  • 起床:尿色チェック、準備飲料をコップ1杯
  • 朝食:塩分を含む食事+水分(500–700 ml目安)
  • 試合2–3時間前:5–7 ml/kgの先回り補給
  • 60分前:尿が濃いなら3–5 ml/kg追加
  • 直前:250–500 ml仕上げ(低浸透圧)
  • 前半:給水タイムごとに小分けで
  • HT:6–8%糖+中〜高ナトリウムを確実に
  • 後半:前半同様に継続、暑熱時はアイススラリーも
  • 終了後:損失の150%を2–4時間で回復飲料+食事
  • 夜:尿色が薄く安定するまでこまめに

30秒で作る“自分の汗量メモ”とボトル設計

  • メモ例:「炎天下ゲーム形式60分=汗1.2 L、俺の目標飲量=700–900 ml」
  • ボトル設計:500 ml×2本を「試合用4%」「HT用6%」で色テープ分け
  • キャップに目盛りをマーカーで書いて、飲んだ量を可視化

遠征・夏期合宿のチェックリスト

  • 保冷ボトル2–3本、予備キャップ、氷・クーラーバッグ
  • 食塩と砂糖(計量スプーン)、粉飴や塩タブレット
  • 体重計、尿色チャート、個人用タオル・着替え
  • テント・ミスト扇風機などの遮熱・冷却ツール

よくある誤解Q&A

「水を大量に飲めば安全?」への回答

水だけの大量摂取は、低ナトリウム血症リスクが上がります。ナトリウムを含む飲料を、発汗量に見合う量で。

「痙攣はマグネシウム不足?」への回答

痙攣の原因は多因子。疲労、神経筋のコントロール、脱水、ナトリウム不足が複合します。まずは水分・ナトリウム・ペース配分の見直しを。マグネシウムの高用量は下痢の原因になることがあります。

「トイレが近くなるのが心配」への回答

一気飲みは尿量が増えやすいです。小分けに、ナトリウム入りで。練習前にこまめに飲んでおき、直前に大量摂取しない工夫も有効です。

「氷は胃が冷えるからダメ?」への回答

少量の冷飲やアイススラリーは、体温上昇を抑える助けになります。胃が弱い人は少しずつ、競技での自分の許容量を練習で確認しましょう。

環境と装備で“飲み物の効き”を高める

WBGT・気温・湿度の見方と意思決定

WBGTは暑さの指標で、湿度の影響を反映します。高いほど熱中症リスク増。数値が高い日は、練習強度・時間を調整し、給水タイムを追加。無理をしない判断が、結局はパフォーマンスを守ります。

保冷ボトル/クーラーバッグの使い分け

  • 保冷ボトル:試合中の主力。口当たりがよく飲みやすい。
  • クーラーバッグ:予備ボトル、アイススラリー、氷嚢をまとめて管理。

ユニフォーム・アンダーウェア・帽子の工夫

通気性・吸汗速乾のウェアを選び、濃色の直射吸収を避ける。アップや待機時は帽子やタオルで遮熱。首・脇・鼠径部の冷却は効率が良いです。

まとめ|ピッチで倒れないための最短ルート

数値で管理し、習慣で守る

体重差で汗量を知り、ナトリウム20–50 mmol/L、糖質3–6%(HTは6–8%)を軸に、シーン別の量をルーティン化。終了後は150%を塩分とともに戻す。これだけで、熱中症リスクは大きく下げられます。

明日へつながる“飲み方の振り返りシート”

  • 今日の気温/湿度/WBGT:
  • 前後体重差: kg(−2%以内?)
  • 飲んだ総量: ml(計画との差: ml)
  • 途中の兆候(頭痛・吐き気・痙攣・集中力低下):
  • 次回への修正点(濃度/量/タイミング/冷却):

小さな記録が、倒れない大きな差になります。体調に不安がある場合は無理をせず、医療機関に相談してください。夏のピッチを安全に、そして最後の一歩まで強く戦い切りましょう。

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