目次
- サッカーのリカバリー走とは?疲労回復と持久力を同時に高める
- リカバリー走とは?サッカーにおける定義と目的
- 生理学的メカニズム:なぜゆっくり走ると回復し持久力が伸びるのか
- どれくらいの強度が最適か:心拍数・RPE・ペースの目安
- いつ行うか:試合翌日・トレーニング週内の組み込み方
- メニュー設計:時間・距離・地形・ドリルの具体案
- ポジション別・レベル別の調整ポイント
- ボールを使うか使わないか:ラン単体 vs ボールありリカバリー
- 回復効果を最大化する補助要素(補食・水分・睡眠・モビリティ)
- よくある失敗と対処法
- モニタリングと負荷管理(GPS・HRV・主観指標)
- オフフィートの代替案(バイク・スイム・プールラン)
- 怪我予防とリターントゥプレーにおけるリカバリー走の位置付け
- 季節・環境別の注意点(猛暑・寒冷・人工芝)
- よくある質問(FAQ)
- まとめ:今日から実践するためのチェックリスト
- おわりに
サッカーのリカバリー走とは?疲労回復と持久力を同時に高める
「走ると余計に疲れが溜まりそう…」そう感じる人にこそ知ってほしいのが、サッカーにおけるリカバリー走(回復走)。ゆっくり走ることで、翌日の体の重さを軽くし、同時にシーズンを通して効く“土台の持久力”を積み上げられます。ポイントは、強度のコントロールとタイミング。この記事では、生理学の根拠から具体的メニュー、ポジション別の調整、モニタリング方法まで、実践に落とし込める形で紹介します。今日から無理なく取り入れて、試合の質を一段上げましょう。
リカバリー走とは?サッカーにおける定義と目的
用語の整理:リカバリー走=回復走=アクティブリカバリーの違いと共通点
いずれも「低強度で体を動かしながら回復を促す」考え方です。厳密には、回復の対象(筋肉の張り、神経的な疲労、心肺のだるさ)や手段(ジョグ、バイク、ウォークなど)が少し違いますが、共通するのは“息が上がらない強度で、血流を増やす”こと。サッカーでは走ることが中心になるため、連続ジョグや断続ジョグを使うのが一般的です。
サッカー特有の背景:反復スプリントと方向転換で溜まる疲労をどう抜くか
サッカーは加減速と方向転換が多く、筋肉や腱、関節に“ブレーキ系”のストレスが蓄積します。これが翌日の脚の重さや張りにつながります。低強度のランで筋ポンプを働かせると、滞った血液や代謝産物が流れやすくなり、「歩くだけでは抜けにくい重さ」を軽くできます。
主な目的:疲労回復の促進、有酸素基盤の維持・強化、ケガ予防のための循環改善
狙いは3つ。まず、血流を増やして回復を早めること。次に、低負荷でも時間をかけることで有酸素の“底力”を維持・底上げすること。そして、筋・腱に過度な衝撃を与えずに動くことで硬さを和らげ、ケガリスクを下げることです。
成果指標:翌日の主観的回復度(RPE・脚の重さ)、心拍回復、次セッションの質
「良いリカバリー走」の目印は、翌日の脚の軽さや主観的な疲労低下、安静時心拍の安定、トレーニング再開時の動きのキレ。心拍の戻りが早い、アップで体が温まりやすい、技術練習の質が保てる——こうした変化を記録して判断しましょう。
生理学的メカニズム:なぜゆっくり走ると回復し持久力が伸びるのか
血流増加による代謝産物のクリアランス(乳酸は「燃料」として再利用される)
低強度のランは筋ポンプ作用で血流を増やし、疲労感の一因である代謝産物の循環・再利用を助けます。特に乳酸(正確には乳酸から解離した乳酸イオン)は“疲労物質”ではなく、心筋や遅筋で燃料として再利用されます。軽く動くことで燃え残りを片づけるイメージです。
自律神経の再均衡:副交感神経優位への移行とストレス低減
激しい試合やトレーニングは交感神経が優位になりがち。低強度の有酸素は呼吸とリズム運動で副交感神経を引き上げ、睡眠の質や回復感を後押しします。鼻呼吸中心で会話できる強度が目安です。
毛細血管拡張とミトコンドリア刺激による有酸素能力の底上げ
低〜中強度の反復は毛細血管の発達やミトコンドリア機能の改善に関与し、長期的な耐久性向上に寄与します。疲れを取りながら強くなる“二兎を追う”ためには、強度を欲張らないことがカギです。
筋損傷と炎症の関係:強度を誤ると回復が遅れる理由
回復走が失敗する典型は、「速すぎるジョグ」。心拍や着地衝撃が上がりすぎると、筋損傷が増えて炎症が長引きます。ゆっくり、短め、ソフトな路面——この3点でリスクを抑えましょう。
どれくらいの強度が最適か:心拍数・RPE・ペースの目安
心拍ゾーンの基準:最大心拍の50〜70%(ゾーン1〜2)
強度は最大心拍の50〜70%が基本。心拍計があればゾーン1〜2内に収めます。最大心拍は個人差が大きいため、デバイスの推定値や過去データを参照しましょう。
RPEの目安:2〜3(会話可能、鼻呼吸中心でも余裕がある)
心拍計がなくても、RPE(主観的運動強度)2〜3を基準に。隣の人と普通に会話でき、鼻呼吸中心でも息苦しくないレベルが目安です。
ペース設定:試合時のジョグより遅く、LSDよりも短時間・軽強度
体感としては、試合の戻りジョグより遅め。LSD(ロングスローディスタンス)ほど長くも強くもありません。あくまで“軽く汗をかく”程度に留めます。
個人差の管理:地形・路面・気温による補正とウォッチ/GPSの活用
上り坂や向かい風、暑さ寒さは心拍に影響します。コースを平坦にする、気温の低い時間帯を選ぶ、ラップペースより心拍とRPEを優先する——こうした調整が回復の質を決めます。
フォームの要点:接地はソフトに、ピッチは一定、リラックスした上半身
地面を“置く”ような静かな接地、一定のピッチ、小さめのストライド。肩と手の力みを抜き、顎を引いて目線は遠くへ。フォームの整え直しにも最適です。
いつ行うか:試合翌日・トレーニング週内の組み込み方
試合翌日のアクティブリカバリー:走る/歩くのハイブリッド
試合翌日は「1分ジョグ+30秒ウォーク」を繰り返す断続様式が扱いやすいです。脚の重さが強い日はウォーク比率を増やし、終盤に軽い連続ジョグへ移行します。
週1試合のミクロサイクル例:試合翌日→回復、2日後→技術、3〜4日後→強度、前日→調整
典型例:試合(Sun)→回復走(Mon)→技術・戦術(Tue)→強度(Wed/Thu)→軽めの調整(Fri)→前日リハーサル(Sat)。回復走は主にMon、必要ならThuに短めを追加します。
週2試合(連戦)の場合:ボリューム最小・頻度最適化
水・土など連戦時は、回復走は超短時間(10〜20分)で十分。むしろ睡眠と補食を優先。移動が多い日はオフフィート(バイク・プール)に置き換えます。
午前/午後の使い分け:学業・仕事と両立するタイムマネジメント
朝の軽い回復走はその日の集中力を上げ、夜の入眠も整えやすくなります。夜に行う場合は遅すぎる時間帯を避け、終了後のクールダウンと補食を手早く。
完全休養に切り替える判断基準:痛み、睡眠不足、過度疲労のチェック
鋭い痛み、関節痛、睡眠不足(目安:6時間未満が続く)、めまい・強い倦怠感がある日は、躊躇なく完全休養へ。歩行やモビリティだけに切り替えましょう。
メニュー設計:時間・距離・地形・ドリルの具体案
基本メニュー:20〜40分の連続ジョグ(平坦、ソフトな路面)
芝・土・トラックなど柔らかい路面で、RPE2〜3を厳守。時間は調子により20〜40分の範囲。ペースはあくまで従属、心拍と会話テストを優先します。
断続メニュー:1分ジョグ+30秒ウォーク×10〜20セット
合計15〜30分。呼吸が乱れたらすぐウォーク比率を上げられるため、試合翌日や筋肉痛が強い日に有効です。
距離の目安:3〜6km(個人の試合負荷に応じて調整)
距離は目安。スプリントと接触の多い試合後は短め、走行距離が少なかった選手はやや長めでもOK。いずれも心拍ゾーン1〜2を外さないこと。
仕上げの流し(ウィンドスプリント)60〜80m×3〜6本(60%)
最後にフォームづくりとして“速くない流し”を数本。60%程度でスムーズに。疲労が強い日は省略します。
トレッドミル代替:0〜1%傾斜、回復用カデンス管理
屋内では傾斜0〜1%、心拍基準で。ピッチを一定に保ち、足音が静かに着地できているかを指標にします。
モビリティ+コア5〜10分を併用する流れ
股関節・足関節・胸椎のモビリティ、腹圧を意識した呼吸系コアを5〜10分。走る→モビリティ→軽い流し→呼吸で締め、が整いやすい流れです。
ポジション別・レベル別の調整ポイント
サイドMF/FB:高走行距離の翌日はボリュームより強度を更に抑制
距離が伸びやすいポジションは、翌日こそさらにゆっくり。時間は短くてもOK。断続ジョグ中心に。
CF/CB:空中戦・接触が多い場合は路面をよりソフトに、ウォーク比率増
コンタクトで筋損傷が残りやすいので、芝やトラックを選び、ウォークを多めに挟みます。
GK:ジョグ短め+フットワーク&モビリティ中心
ジョグは10〜20分で十分。股関節の可動域、肩・体幹のコントロールを重視した補助ドリルを組み合わせましょう。
育成年代と成人:成長期の骨端線への配慮と頻度管理
成長期は接地衝撃を最小化。断続ジョグやプールランの活用、頻度は週2〜3回を上限に、体調優先で。
個人の既往歴(シンスプリント・膝周り)に応じた地形選択
下腿や膝に既往のある人は、硬い路面や長い下り坂を避け、傾斜の少ない周回コースを選びます。
ボールを使うか使わないか:ラン単体 vs ボールありリカバリー
ラン単体の利点:強度を正確にコントロールできる
心拍やRPEを狙い通りに管理しやすく、回復走の目的を外しにくいのが最大のメリットです。
ボールあり(ロンド、パス回し)の注意:競争が入ると強度が上がりやすい
楽しい分、つい強度が上がりがち。タッチ制限や人数設定で負荷が跳ね上がることも。心拍モニターがあると安心です。
ハイブリッド案:低強度ジョグ+テクニカルタッチ(固定ドリル)
10〜20分ジョグの後に、決められたテンポでの基礎タッチやフォームドリルを数分。競争要素を入れないのがコツ。
判断基準:心拍・RPE・コーチング環境で選択を最適化
自主練や心拍計がない環境ではラン単体が無難。チームで統一してコントロールできるならボールありも選択肢です。
回復効果を最大化する補助要素(補食・水分・睡眠・モビリティ)
リカバリー栄養:炭水化物1.0〜1.2g/体重kg、タンパク質0.3g/体重kgの目安
試合〜翌日にかけては、炭水化物でグリコーゲンを戻しつつ、タンパク質で修復をサポート。消化の良いものを小分けに摂ると入れやすいです。
水分・電解質:発汗量に応じて体重減少分の150%を2〜4時間で補う
計測できるなら練習前後の体重差を目安に。塩分や電解質も適量補い、透明〜淡い黄色の尿色を目標にします。
睡眠:7〜9時間の確保、就寝前ルーティン
光を落とす、スマホは就寝60分前にオフ、寝る前の軽い呼吸エクササイズなど、毎日同じ流れを作ると質が安定します。
クールダウン:軽いモビリティと呼吸法、長時間の強い静的ストレッチは避ける
強く長い静的ストレッチは直後の力発揮を下げる可能性があるため、回復走では軽めの可動域づくりと呼吸を中心に。
冷却・温冷交代浴の位置付け:実施する際のタイミングと個人差
炎症が強いと感じる部位は短時間の冷却が心地よいことがあります。温冷交代浴は好みが分かれるので、試合後〜数時間以内の短時間で試し、睡眠の質を優先。
よくある失敗と対処法
速く走りすぎる:会話テストとHR上限で制御
会話が途切れたら減速。心拍はゾーン2上限に“触れない”。見栄は禁物です。
坂道・硬い路面での負担増:コース選びで回避
坂と硬い路面は着地衝撃を増やします。可能なら芝・土・トラックへ。
新しいシューズの試用:回復日に行わない
足当たりの慣れがなく、思わぬ刺激に。新作は元気な日に。
痛みの無視:鋭い痛み・関節痛は中止、歩行代替へ
“違和感”と“痛み”は別物。痛むなら即ウォークorオフへ切替。
メニュー固定化:コンディションに合わせて時間と断続比を調整
同じメニューでも体は毎日違います。RPEと脚の重さで即日調整を。
モニタリングと負荷管理(GPS・HRV・主観指標)
RPE×時間(sRPE)で週負荷とモノトニーを管理
セッションのRPEに時間(分)を掛けたsRPEで週合計を見える化。日ごとのバラつき(モノトニー)も確認し、単調な高負荷を避けます。
GPS指標:総距離、低速帯の割合、加減速回数の抑制
回復走は「低速帯の割合が高い」「加減速が少ない」のが理想。高強度スパイクは翌日に回します。
心拍回復・安静時心拍・HRVのトレンドを参考にする
起床時の安静HRやHRV(心拍変動)は回復度のヒント。個人のベースと比較して判断します。
簡易ウェルネスチェック:睡眠・筋肉痛・ストレス・活力
1〜5のスケールで日々チェック。3以下が続く項目があれば、回復走の時間を短縮またはオフへ。
週次レビュー:翌日の練習質とケガ発生のフィードバック
回復走を入れた翌日の技術練習の質、違和感・痛みの発生を記録。次週の時間・頻度調整に活かします。
オフフィートの代替案(バイク・スイム・プールラン)
バイク:20〜40分、ケイデンス90±10、心拍ゾーン1〜2
関節への衝撃が少なく心拍管理も容易。サドル高を適切にし、上半身はリラックス。
スイム:テクニック重視のイージー、肩の過負荷に注意
クロールのドリル中心で、呼吸のリズムとリラックスを意識。長距離の強いプルは避けます。
ディープウォータージョグ:接地衝撃ゼロで有効
水中でのラン動作模倣は、下肢の負担を極小化しつつ循環を高められます。
エリプティカル・ローイングの使い分け
エリプティカルはランに近い全身有酸素、ローイングは背面も使う全身運動。いずれも心拍ゾーン1〜2で。
怪我予防とリターントゥプレーにおけるリカバリー走の位置付け
急性期は不可:腫れ・熱感・鋭痛がある場合は医療的評価を優先
炎症の強い急性期は動かさないのが基本。専門家の評価を優先し、勝手な判断で走らないこと。
痛みのない範囲での段階的復帰:歩く→断続ジョグ→連続ジョグ
痛みゼロで歩ける→断続ジョグで違和感なし→短い連続ジョグへ。各段階で24時間後の反応を確認します。
シンスプリント・ハムストリング既往への配慮:量より頻度で積む
1回を短く、週内で小分けに回数を増やす方が安全。路面は徹底して柔らかく。
フォーム再学習:接地時間・上下動の最小化
メトロノームでピッチ安定、骨盤を立て、膝下で素早く回す。雑音の少ない着地音を目安に。
季節・環境別の注意点(猛暑・寒冷・人工芝)
暑熱時:WBGTを参考、時間帯を朝夕に、給水計画を立てる
暑い日は強度が上がりやすいので、時間を短くこまめに補水。日陰や風の通るコースを選びます。
寒冷時:ウォームアップを長めに、末端の防寒
開始10分はさらにゆっくり。手袋・ネックウォーマーで末端を守ると動きが出やすいです。
人工芝:反発と摩擦で下腿負担増、シューズ選択とボリューム調整
人工芝は下腿の張りが出やすい傾向。クッション性の高いシューズを使い、時間は短めに。
花粉・大気汚染:マスク・コース変更で呼吸器負担を減らす
症状が強い日は屋内やプールに切替。回復走の目的は“回復”であることを忘れずに。
よくある質問(FAQ)
Q1:リカバリー走は何分が最適?
A:20〜40分が一般的。強い疲労や連戦中は10〜20分に短縮し、RPE2〜3を厳守します。
Q2:距離はどのくらい走るべき?
A:3〜6kmが目安ですが、距離より心拍と主観を優先。坂や風があれば距離は短くてもOKです。
Q3:毎日やってもいい?完全休養は必要?
A:毎日は推奨しません。週2〜4回を上限に、睡眠不足や痛みがある日は完全休養へ。
Q4:脂肪燃焼と回復の両立は可能?
A:低強度は脂質代謝に寄与しますが、目的は回復。強度を上げて“燃やす”発想は逆効果になりやすいです。
Q5:筋肉痛(DOMS)が強いときは走っていい?
A:鋭い痛みや関節痛がなければ、断続ジョグやウォーク中心なら可。悪化する感覚があれば即中止を。
Q6:ウォーキングだけでも効果はある?
A:あります。特に試合翌日や強い張りがある日は、早歩きとモビリティの組み合わせが有効です。
Q7:試合翌日にインターバルはアリ?
A:基本はナシ。回復目的なら低強度を外さないこと。インターバルは48〜72時間後が無難です。
Q8:心拍計がなくても管理できる?
A:可能です。会話テスト、鼻呼吸、RPE2〜3、足音の静かさを指標にしましょう。
まとめ:今日から実践するためのチェックリスト
- 強度:最大心拍の50〜70%/RPE2〜3/会話が途切れない
- 時間・頻度:20〜40分を週2〜4回、連戦や強疲労時は10〜20分
- 路面・ギア:平坦で柔らかい路面、履き慣れたシューズ、心拍orRPE管理
- 補助:炭水化物1.0〜1.2g/kg+タンパク0.3g/kg、水分は体重減の150%を2〜4時間で
- クールダウン:モビリティと呼吸、長い強い静的ストレッチは避ける
- 記録:RPE・心拍・脚の重さ・睡眠をメモ→翌日の練習質で評価
- NGサイン:鋭い痛み・関節痛・睡眠不足→完全休養orオフフィートへ
おわりに
リカバリー走は「疲れたから休む」の中間にある、賢い選択です。サッカー特有の加減速や方向転換のダメージを軽くし、翌日の技術・戦術練習の質を底上げしてくれます。大事なのは“ゆっくり”“短め”“柔らかく”の3原則と、体の声を聞くこと。今日の状態に合わせて、強度と時間を遠慮なく調整してください。小さな積み重ねが、シーズン終盤の一歩に変わります。
