90分の試合で最後まで走り切るには、「持久力」と「スタミナ」を同じ言葉で片づけないことが近道です。持久力は“走り続ける土台”。スタミナは“土台+スプリントの出し入れ+回復+メンタル+補給”まで含めた総合力。本記事は、この2つを分けて鍛える考え方と、現場で使える測定・メニュー・運用のコツを一気にまとめた実践ガイドです。
目次
- 導入|なぜ“持久力”と“スタミナ”を分けると90分で差がつくのか
- 持久力 と スタミナ の違い|定義・生理背景・試合での現れ方
- 90分のサッカーを支える3つのエンジン
- 現状把握|フィールドでできる測定と自己チェック
- 鍛え方(オフ期・プレシーズン)|土台をつくる
- 鍛え方(シーズン中)|維持とキレを両立する
- ポジション別アプローチ|同じ“走る”でも中身が違う
- ドリルとメニュー集|現場で回せる実戦的プロトコル
- 試合で差をつく運用術|90分をデザインする
- 回復・栄養・睡眠|“練習外”でスタミナは伸びる
- けが予防と体づくり|走り切るための耐久ボディ
- プログラム設計とピリオダイゼーション
- ありがちな失敗と対策|“ただ走るだけ”を卒業
- 進歩を可視化するKPIとログ
- 年代別・個別差への配慮
- メンタルの持久力|判断と集中を90分保つ
- FAQ|よくある質問
- まとめ|90分で差がつく鍛え方の要点
導入|なぜ“持久力”と“スタミナ”を分けると90分で差がつくのか
サッカーの運動特性:反復スプリントと断続的高強度の現実
サッカーはジョグだけでも、スプリントだけでもありません。低〜中強度の移動がベースにあり、短いスプリントや方向転換、タックル後の再加速が何度も差し込まれる「断続的高強度スポーツ」です。だからこそ“持続”する力と“もう一度爆発する”力の両輪が要ります。
終盤に足が止まる原因はひとつではない
落ちる理由は多層です。有酸素の弱さ、反復スプリント耐性の不足、フォーム乱れ、補給不足、暑熱、メンタルの切り替え不全など。原因を分けて対策することが、同じ練習量でも効果を最大化します。
用語の整理:Endurance(持久力)とStamina(総合的耐性)
ここでは「持久力=一定以上の強度で動き続ける能力(主に有酸素土台)」、「スタミナ=試合をやり切る総合力(有酸素+無酸素+神経筋+回復・栄養・メンタル含む)」と定義します。言葉を分けると、鍛え方が明確になります。
この記事のゴール:90分を通して落ちない身体をつくる指針
測る→弱点を特定→目的別メニューを当てる→試合運用で活かす。この循環を、フィールドで回せる形に落とし込みます。
持久力 と スタミナ の違い|定義・生理背景・試合での現れ方
定義の違い:持久力=持続能力、スタミナ=試合をやり切る総合力
持久力は「落ちない巡航速度」を押し上げる力。スタミナは「走り続けながら、要所で出し入れして、最後まで意思決定の質を保つ力」です。
生理学的背景:有酸素系・無酸素系・神経筋の役割分担
有酸素系は燃費と回復スピードを高め、無酸素系は短時間の高出力を担い、神経筋はスプリントのキレやフォーム維持を支えます。どれか一つでは90分は保ちません。
ピッチでの違い:走り続ける力と、要所で“もう一度”出せる力
持久力が高いとポジション取りが安定し、プレッシングの連動が切れにくい。スタミナが高いと、終盤でも「あと一歩」「もう一度のスプリント」が出ます。
よくある誤解と正しい使い分け
“長く走れればOK”は誤解。長距離ジョグだけではスプリントの質は守れません。巡航を上げる練習と、出し入れの練習を分けて計画しましょう。
90分のサッカーを支える3つのエンジン
有酸素ベース(VO2max・クリティカルスピード)
VO2maxは酸素を使う上限、クリティカルスピード(CS)は「長く維持できる実戦スピード」。CSが上がるほど、同じプレーが“楽”になります。
反復スプリント耐性(RSA)と無酸素容量・パワー
RSAは短い全力走を不完全回復で繰り返す力。守備の連続ダッシュやトランジションで差が出ます。
ローカル筋持久力(下肢・体幹)とフォーム維持
ふくらはぎ・ハム・臀部・体幹の耐性は、減速〜再加速や方向転換の乱れを防ぎます。フォームが崩れると心拍も無駄に上がります。
現状把握|フィールドでできる測定と自己チェック
Yo-Yoテスト(IR1/IR2)の活用と読み解き方
IR1は有酸素と回復力、IR2はより高強度への耐性を評価。合計距離が頭打ちなら有酸素、落ち幅が大きいならRSAが課題です。
クリティカルスピード/最大有酸素速度(MAS)の簡易推定
6〜10分全力走の平均ペースをCS目安に。MASは「VO2max付近で走れる速さ」の指標として、インターバル強度設定に使えます。
リピートスプリントテスト(RSA):最速と落ち幅を見る
例:30m×6〜10本(レスト20〜30秒)。ベストタイムと平均の乖離(%)が小さいほどRSA良好です。
心拍ゾーンとRPE:主観指標を精度よく使う
ゾーン2=会話可能(最大心拍の約60〜70%)、テンポ=会話が途切れる、インターバル=会話不可。RPE(10段階)の記録で日々のブレを補正できます。
HRドリフト(デカップリング)で耐久の質を確認
同じペースで心拍がじわ上がるほど土台が未熟。ゾーン2走で前半・後半の心拍平均差を観察しましょう。
シンプルな現場テスト:6〜10分全力走・1kmタイム・シャトル走
器具なしでも進歩は測れます。条件(路面・時間帯・靴)をそろえるのがコツです。
鍛え方(オフ期・プレシーズン)|土台をつくる
有酸素の土台:ゾーン2持続走とテンポ走の役割分担
ゾーン2(30〜60分)は回復力と脂質代謝を育て、テンポ(15〜25分)は「楽ではない」を押し上げます。週2〜3回で十分に効果的。
VO2maxインターバル(4分×4本など)で酸素摂取の天井を押し上げる
4分(RPE8〜9)×4本、レスト2〜3分ジョグ。終盤にギリ維持できる強度が目安です。
ロングインターバル(5〜8分)でクリティカルスピードを伸ばす
5〜8分×3〜5本、レスト等時間の半分。苦しいが崩れないフォームで押し切ります。
筋持久力サーキット:下肢・臀部・体幹の耐性づくり
例:ブルガリアンスクワット、ヒップヒンジ、カーフレイズ、プランク、サイドプランクを30〜45秒×2〜3周。反動ではなくコントロール重視。
週のテンプレ例(2〜3回のラン+2回の補強+1回のSSG)
月:補強+SSG/火:ゾーン2/水:オフ/木:ロングインターバル/金:補強/土:4分×4本/日:オフ。疲労に応じて1枠は完全休養へ。
故障予防の漸進原則:ボリュームと強度の上げ方
週あたりの走行量と高強度の合計時間は各10〜20%以内の増加を目安に。新しいドリルは1種類ずつ導入すると安全です。
鍛え方(シーズン中)|維持とキレを両立する
小規模ゲーム(SSG)でゲーム体力と意思決定を同時強化
3v3〜6v6、局面を絞った制約でプレー強度を確保。時間は短く、意図は明確に。
短時間・高効率:30-30/15-15などの高強度インターバル
高強度(RPE8〜9)30秒+同時間レストを8〜12本。15-15は総量を増やしやすく、疲労管理に便利です。
RSA向上のミニブロック:短距離スプリント反復と不完全回復
20m×10本(レスト20秒)を週1で3〜4週。丁寧な減速とスタート姿勢を徹底します。
マイクロドージング:週内での小分け刺激と疲労管理
スプリント2〜4本(20〜30m)をアップ内に挿入、補強は5〜10分の“おまけ”で積み上げ。少量高品質が崩れにくい。
試合2〜3日前の調整:ボリューム減・強度微維持
走行量は30〜50%カット、スプリントは少数で質を確認。脚を軽く保ちます。
ポジション別アプローチ|同じ“走る”でも中身が違う
サイド(SB/ウイング):高速度走と往復走の持久化
40〜60mのハイスピード走×6〜10本、戻りはジョグ。クロス後のリターンランを想定したドリルが有効です。
中盤(CM/DM/AM):変速走と方向転換の反復耐性
コーダル(速い−遅い切替)やシャトル走で認知負荷も加える。2〜3秒の加減速を数多く。
センター(CB/CF):短い加減速と空中戦後の再加速
10〜20mのスタート&ストップ×8〜12本、接触後の1stステップ強化。ジャンプ→着地→3歩ダッシュを組み合わせます。
GK:爆発的反応の反復と回復の早さ
左右への1〜2歩スライド→ダイブ→リカバリーの連続。休息は短めで判断速度を優先。
ドリルとメニュー集|現場で回せる実戦的プロトコル
4分×4本(2〜3分レスト):王道VO2maxインターバル
狙い:酸素摂取の上限引き上げ。終盤にフォームが乱れない速さで。週1で十分効きます。
30-30・15-15・10-20:時間比で負荷をコントロール
30-30は強度高め、15-15は総量を稼ぎやすい、10-20は回復寄り。目的に合わせて使い分けましょう。
5-25/10-50:スプリント—不完全回復でRSA狙い
5秒全力→25秒歩き×8〜12本、10秒→50秒×6〜10本。出力は落とさず、落ち幅最小を狙います。
シャトル&コーダルラン:方向転換と減速・再加速の耐性
10-20-10mのシャトル×6〜10本、コーダルは20秒速い−20秒ゆっくり×8〜12分。ラインを踏む正確性も評価基準に。
ボールを使った連続ドリル:パス—プレス—トランジションの循環
パス交換→ロスト→即時奪回→シュート→戻り配置、を30〜60秒回し、60〜90秒レスト。技術と体力を同時刺激。
二部練の組み方:午前ベース/午後短高強度
午前:ゾーン2+補強、午後:短時間高強度。間食・補水・昼寝で回復時間を確保します。
試合で差をつく運用術|90分をデザインする
ペーシング戦略:前半の使い方と後半の残し方
前半は“基準運転”で無駄走りを減らし、要所で出す。後半へ10〜15%の余力を計画的に残します。
データの見るポイント:総距離・HSR・スプリント回数
総距離はベース、HSR(高速度走)とスプリント回数は出し入れの質。終盤の落ち幅を次週のテーマに。
ハーフタイムの補給とリセットルーティン
炭水化物を少量(ジェル等)、水・電解質を補給。深呼吸→軽いドリル→前半の学びの確認で再スタート。
暑熱・高湿度対策:補水・冷却・配分
こまめな飲水、可能なら首・脇の冷却。前半の過度なハイプレスは避け、ブロックでエネルギーを貯める判断も。
延長に備える微調整:交代とエネルギーマネジメント
延長の可能性がある試合は、後半中盤での全力スプリント数を抑える選択も。交代の順と役割を事前合意。
回復・栄養・睡眠|“練習外”でスタミナは伸びる
24時間リカバリー:運動後30分・3時間・就寝前の要点
運動後30分:水分・炭水化物・タンパク補給。3時間:バランス食。就寝前:ストレッチと入浴で副交感神経優位に。
炭水化物・タンパク質・電解質:量とタイミングの基本
目安:炭水化物は活動量に応じて増減、タンパクは体重1日あたり約1.6g/kg程度を分割、汗の多い日は電解質を追加。
試合前日—当日の補食と水分計画
前日:炭水化物多めで消化に優しい食事。当日:開始2〜3時間前に主食+タンパク、試合中は小分けの補給で血糖を安定。
サプリの考え方:カフェイン・クレアチン等の注意点
カフェインは少量から試し、試合前は摂取タイミングと量を個別最適に。クレアチンは日常摂取で短時間出力の助けになる場合があります。
睡眠の質を高めるルーティン:就寝前90分の整え方
画面を減らし、ぬるめの入浴、照明を落とす。起床・就寝時刻の一貫性が最強のリカバリーです。
けが予防と体づくり|走り切るための耐久ボディ
ハムストリングスのエキセントリック強化(ノルディック等)
週2回、少回数で質重視。スプリント後半の失速と肉離れリスクの低減に役立ちます。
ふくらはぎ・アキレス腱の耐性:カーフレイズと跳躍ドリル
ストレート・ベントニーの両方を実施。ホッピングやスキップで弾性を育てます。
股関節・体幹の安定:回旋コントロールと姿勢保持
パロフプレス、デッドバグ、ヒップエアプレーンなど。方向転換時のブレを抑え、減速の質を上げます。
スプリント後の筋ダメージ管理:48時間のケア
強度日翌日は軽い循環系運動とモビリティ。痛みが強い部位は無理せず負荷を調整します。
プログラム設計とピリオダイゼーション
4〜6週のブロックで目的を明確化
「土台→出力→出し入れ」の順に焦点を移すと、干渉が少なく伸びやすいです。
ボリューム×強度×頻度の最適点を探る
3つの合計ストレスが身体の限度を超えないように。高強度が増える週はボリュームを抑えるなど、天秤で考えます。
試合日程から逆算する週内配列(強・中・軽)
試合+2日後=強、−3〜2日=中、−1日=軽。固定リズムにすると回しやすいです。
学業・仕事と両立するタイムマネジメント
移動や空きコマに“マイクロ補強”を差し込む。10分でも積み上がります。
ありがちな失敗と対策|“ただ走るだけ”を卒業
長距離ジョグのやり過ぎとスピードの消失
週の過半がジョグになるとスプリントが鈍ります。短時間の質的刺激を残しましょう。
高強度の入れ過ぎと慢性疲労
「毎回死ぬほど」はNG。RPE7〜8中心で、ピークは週1〜2回まで。
回復軽視:睡眠不足・低エネルギー摂取
練習の質は回復で決まります。睡眠時間と食事量の確保を最優先に。
合わないシューズ・路面・暑熱環境のリスク管理
クッションと反発のバランス、路面の硬さ、気温湿度をチェック。足裏の違和感は即対応。
継続を阻む要因を先回りで潰すチェックリスト
時間割・天候代替案・栄養の事前準備・練習仲間の確保。障害物は事前に除去。
進歩を可視化するKPIとログ
Yo-Yo・CS・RSAの定期測定スケジュール
4〜6週ごとに簡易テスト。増減の傾向を見て、次ブロックの焦点を決めます。
心拍・RPE・主観回復度(Wellness)の活用
起床時の主観疲労・睡眠時間・筋肉痛スコアを記録。高強度日はRPEと心拍の乖離も確認。
練習日誌テンプレ:目的—負荷—感想—次回課題
「今日の目的は何か」を書くだけで集中が上がり、学習が加速します。
停滞の見極めとメニュー更新のサイン
2〜3週横ばい+主観疲労高止まり=刺激の入れ替え時。ボリュームを落として強度を維持、または逆も有効です。
年代別・個別差への配慮
高校生:成長期の回復配慮と基礎技術との両立
連日の高強度は避け、睡眠・食事を最優先。技術練習と体力練習を分けて短時間高品質に。
大学生・社会人:限られた時間での高効率設計
15〜30分の高強度+5〜10分補強で“最小で最大効果”を狙う。移動時間はゾーン2に置き換え可能。
個体差(スプリント型/持久型)の強みを伸ばす分岐
スプリント型はCS強化を、持久型はRSAと出力を優先。強みを伸ばしつつ弱点は最小限の投資で塞ぎます。
メンタルの持久力|判断と集中を90分保つ
疲労下の意思決定を鍛える練習設計
心拍が高い状態でのボール保持・数的判断ドリル。プレッシャー下での基準を身体に刻みます。
呼吸・セルフトーク・リセットの技術
プレー切れでゆっくり吐く→短い合言葉で再集中。「次の1プレー」に注意を戻す習慣を。
試合中の“次の1プレー”に集中するフレーミング
ミスは即リセット。良い行動の再現に意識を置くと、終盤の判断が鈍りにくいです。
FAQ|よくある質問
持久力とスタミナ、どちらを先に鍛えるべき?
オフ・プレ期は持久力(土台)→その上にスタミナ(出し入れ)を重ねる順が効率的。シーズン中は併走で微調整。
ジョグだけでサッカーのスタミナは伸びる?
ベースは良くなりますが、反復スプリント耐性や判断の質は伸びにくい。短時間高強度やSSGが必要です。
週2回しか時間がない場合の最優先メニューは?
1:30-30(または4分×4本)。2:SSG+スプリント少数。余力があれば5〜10分の補強を追加。
オフ明けに最短で戻すなら何から始める?
ゾーン2とテンポで土台を2週、次にVO2インターバルとRSAを段階導入。焦らず漸進が結局最速です。
高地トレ/マスクは必要?
環境により選択肢ですが、まずは測定と基礎メニューの徹底で多くの効果が得られます。特殊手段は土台が整ってから。
まとめ|90分で差がつく鍛え方の要点
“違いを分けて鍛える”が最短ルート
持久力=巡航を上げる、スタミナ=出し入れと総合耐性。言葉を分ければ、練習はもっと的確になります。
測る—計画する—回す—見直すの循環を習慣化
Yo-Yo/CS/RSAで現状を見える化。週ごとに狙いを一つに絞り、疲労管理と合わせて回しましょう。
次の2週間で実行するスタータープラン
週1:4分×4本、週1:30-30、週2:補強(ノルディック・カーフ・体幹)、週1:SSG。ジョグはゾーン2で30〜45分。これだけで終盤の“もう一度”が変わります。
