練習は量より「設計」で伸び方が変わります。限られた時間や人数でも、目的と評価、負荷のかけ方を整理すれば、個人もチームも確実に前に進めます。この記事では、サッカー練習メニューの作り方を、今日から実践できるレベルまで分解。60〜120分のセッションテンプレート、週・月の組み立て方、個人練やチーム練の具体例、GKの伸ばし方、負荷管理、映像の活用までひと通りカバーします。
目次
結論と全体像:伸びる練習メニューの設計原則
目的の明確化(技術・戦術・体力・メンタル)
練習は「何を伸ばすか」を1つか2つに絞るほど効果が高まります。以下の4軸からテーマを選び、言葉にして共有しましょう。
技術(テクニック)
- 例:インサイドパスの質、利き足と逆足のタッチ、1stタッチの方向づけ、シュートフォームの安定
戦術(判断・ポジショニング)
- 例:ビルドアップ時の角度作り、数的優位を作る動き、守備の連動(スライド・カバー)
体力(フィジカル)
- 例:反復スプリント、切り返しの俊敏性、当たり負けしない強さ、疲れても崩れないフォーム
メンタル(集中・セルフマネジメント)
- 例:ルーティン化、失敗後の切り替え、声掛けの質、逆境時のチャレンジ
評価軸の設定(定量・定性)
「できた/できない」の感覚に頼らず、簡単な数字と観察で可視化します。
- 定量例:成功率(/10回)、到達回数(分あたりタッチ数)、所要時間(5本連続成功までの時間)
- 定性例:身体の向き、観るタイミング、味方との距離感、声掛けの質
練習前に「今日は何をどう測るか」を決め、終了後に30秒で記録します。
負荷と回復のバランス設計
伸びるのは練習中ではなく回復中。強度は波をつくり、週内・月内で調整します。高強度日は短く、低〜中強度日は技術・判断の質を上げる設計に。
反復と転移:試合で使える形に落とす
基礎ドリル→状況ドリル→ゲーム形式の順で「試合で使える形」へ橋渡しします。最後は必ずゴール・方向・相手・制約を入れ、判断を伴う負荷に。
安全と怪我予防を前提にする
- 十分なウォームアップ(RAMP)とクールダウン
- 痛みがある場合は中止・内容調整
- 成長期は急な負荷増を避け、量と強度を段階的に
設計手順:5ステップで組み立てる
現状分析(強み・課題・リソースの棚卸し)
- 個人:得意/苦手、左右差、走力、怪我歴、練習可能時間と場所
- チーム:得点/失点の傾向、ビルドアップの詰まり、走力特性、参加人数、用具
簡易シート例
強み:運ぶドリブル、守備の1stアクション課題:逆足のパス精度、背後への抜け出しリソース:平日60分×3、土曜チーム練、ボール1・スペース10m×10m
目標設定(SMARTと期間の整合)
- 短期(1〜2週):例「逆足10mパス成功8/10」
- 中期(1ヶ月):例「背後への抜け出しからのシュート決定率20%→30%」
- 長期(3ヶ月〜):例「試合でのキーパス本数を平均1.0→1.8」
KPIとチェック方法を決める
- KPI例:成功率、トライ回数、奪回回数、被カウンター数、RPE(主観的強度)
- チェック方法:動画10〜20秒、カウント係の配置、記録アプリ/メモ
ドリル選定:原則→ドリル→ゲームの連結
「原則(やり方の約束)」を短く言語化し、それに沿うドリルを選び、最後にゲームで検証します。
例:ビルドアップの原則
- 斜めのサポート、縦パスの後のサポート、背後を常に脅かす
実施→記録→見直しのフィードバックサイクル
- 実施:目的・制約・役割を簡潔に共有(30秒)
- 記録:成功率・RPE・気づきをメモ(3分)
- 見直し:次回は何を続け、何を変えるか1点だけ決める
1回のセッション構成テンプレート(60〜120分)
ウォームアップ(RAMP法とボール導入)
- R(Raise):心拍/体温を上げるジョグ・サイドシャッフル
- A(Activate):コア・臀部・ハムを活性化(ヒップリフト、プランク)
- M(Mobilize):股関節・足首・胸椎の可動(ランジ、アンクルロック)
- P(Potentiate):スプリント準備(加速3本、切り返し)
ボール導入
- 2人1組パス&ムーブ、リフティング制約(左右交互、スネ→インステップ)
技術導入(ブロック練習で基礎を固める)
フォームと接触部位を固定して反復。テンポは一定、成功基準を明確に。
- 例:逆足インサイド10m×10本、正確性8/10で距離15mへ
戦術的局面ドリル(状況再現と条件設定)
- 2v1、3v2、4v3など数的優位を設計し、方向とゴールを設定
- 条件例:タッチ数制限、縦パス後は必ずサポート、片側オフサイドライン
ゲーム形式(SSG・条件付きゲーム)
- 小人数(3v3〜7v7)で接触回数と判断回数を増やす
- 得点ルールで目的を強調(縦パス起点のゴール2点、インターセプト1点)
補強・予防(コア・ハム・足首・股関節)
- ノルディックハム、カーフレイズ、ヒップアブダクション、サイドプランク
- ジャンプ着地のフォーム学習(膝・股関節の曲げ、つま先の向き)
クールダウンと振り返り(3分の記録)
- 心拍を落とすジョグ→静的ストレッチ
- 記録:成功/失敗、RPE、次回の1点
週間・月間の周期化(インシーズン/オフシーズン)
試合週の流れ(MD-3〜MD+1の考え方)
MD=試合日。試合に向けて強度と量を調整します。
- MD-3:高強度・短時間(スプリントや切替、戦術の核)
- MD-2:中強度・技術戦術の質(セットプレー確認、SSG)
- MD-1:低強度・テンポ確認(パターン、リラックス)
- MD:試合
- MD+1:リカバリー(出場少ない選手は補強と中強度)
学業・仕事と両立する週割の例
- 月:オフ/軽回復(モビリティ、散歩)
- 火:技術+SSG(中強度)
- 水:補強+個人テーマ(短時間)
- 木:戦術テーマ(中〜高強度)
- 金:セットプレー+テンポ(低強度)
- 土:試合
- 日:リカバリー
オフシーズンの個人強化テーマの決め方
- 試合データと映像から「勝ち筋」「詰まり」の最大要因を1〜2個に絞る
- フォーム矯正と左右差改善、ベース走力、反復スプリント耐性を重点
月間レビューと次月の再設計
- KPI推移(成功率、トライ回数、RPE)
- 怪我・疲労の状況と負荷の妥当性
- 次月は「続ける1・やめる1・始める1」を決める
個人練習メニューの作り方
狙い別:ドリブル・パス・シュート・1対1
ドリブル
- コーンドリブル(2m間隔)左右ターン、足裏ストップ→アウト加速
- 制約:視線を上げる合図を入れる(合図で色・数字コール)
パス
- 逆足インサイド10m×10本→15m×10本
- 壁当て:1stタッチ方向づけ→逆足パスを連結
シュート
- ワンタッチフィニッシュ(斜めからのパス)
- 制約:ファーストタッチは縦の置き所一定、枠内率を記録
1対1
- 狭い区画(8×8m)で「片側ゲート突破」
- 加点:フェイクで相手をずらしてからの突破は2点
ポジション別の重点(SB・CB・CM・WG・ST)
- SB:斜めのサポート、内外のオーバーラップ、クロスの精度と速さ
- CB:前進パスの質、背後管理、1st/2ndボール対応、ヘディングのクリア方向
- CM:方向づけるトラップ、縦パス後の3人目、守備の切替速度
- WG:背後アタックのタイミング、内外の仕掛け、カットイン→シュート
- ST:背負う技術、ターンの引き出し、ボックス内の動き直し
少スペース・少器具で効果を上げる工夫
- 10×10mにミニゴール/マーカーでゲートを作る
- タッチ制限・方向制限・得点ルールで「状況」を作る
自主練の記録フォーマット(時間・回数・感想)
日付:テーマ:逆足インサイドメニュー:10m×10本×3セット成功率:1st 7/10、2nd 8/10、3rd 9/10RPE(1-10):6気づき:踏み足の向きで安定次回:踏み足をボールと並行に置く
チーム練習メニューの作り方
チーム原則の言語化と共有
例:「前進は斜め、縦パス後に3人目を作る」「奪われたら2秒で圧力」「ボール保持者は常に2つの前進解を持つ」。短く覚えやすく、ミーティングと練習で同じ言葉を使います。
フェーズ別設計(ビルドアップ・崩し・守備・トランジション)
- ビルドアップ:3v2+GK、外側はタッチ制限、縦パス後のリターンを評価
- 崩し:4v4+フリーマン、背後ランで2点、折り返しで3点
- 守備:2ラインの連動、スライド幅とトラップのかけ方
- トランジション:3秒の再奪取、奪ったら最短でゴールまたは保持
人数・ピッチサイズ・制約設定の指針
- 人数が少ないほどスペースを狭く、接触回数を増やす
- 技術強調=狭く・タッチ制限、判断強調=中広さ・方向と得点ルール
ローテーションで待ち時間を最小化する
- 列は短く(最大3人)・複数レーン化・役割交代を時計回りで回す
ミーティングとピッチ内容の連動
ミーティングのキーワードをそのままコーチングワードに。練習後は「動画10秒×3クリップ」で確認すると定着が早まります。
目的別ドリルカタログ(設計の考え方)
技術系:反復効率と難易度の段階づけ
- 固定→可変→対人の順に負荷を上げる
- 例:インサイド壁当て(固定)→角度を変える(可変)→2v1で縦パス(対人)
戦術系:制約を使った学習設計
- 制約例:縦パス後にフリータッチ、背後ランでボーナス得点、同サイド連続禁止
フィジカル系:ボールを使った走力・俊敏性強化
- 反復スプリント:20〜30mの往復+ボールコントロール
- アジリティ:カラーコールで進路決定→パス/シュートで終える
セットプレー:役割固定と可変の使い分け
- 基礎は固定動きで精度を上げ、相手に応じて1〜2パターンの可変を準備
- 評価:キックの到達点、ブロック/スクリーンのタイミング、セカンド回収
メンタル・コミュニケーションの内在化
- 合言葉とハンドサイン、失敗後の声掛けルール、キャプテンの再集合キュー
キーパーを伸ばす練習設計
GK専用技術とチーム連携の橋渡し
- キャッチ/パンチング、ローリングダウン、クロス対応を単独で反復
- その後、CBやSBと連携してビルドアップ・背後管理を合わせる
反応速度・ポジショニング・角度の管理
- 視界制限(遅れてスタート)からのシュート対応
- 角度取りの足運び→セット姿勢→反応の連続練習
ビルドアップ参加と足元技術
- 弱側へのスイッチ、縦パス&サポート、バックパスのファーストタッチ方向づけ
セットプレー対応の反復と役割整理
- ゾーン/マンの役割、ニア・ファーの優先順位、キック質に応じた立ち位置
負荷管理とコンディショニング
主観的運動強度(RPE)の活用法
- スケール例(1〜10):5=適度、7=きつい、9=最大に近い
- セッションRPE=練習後の感じ×時間で記録し、週の合計を管理
心拍・スプリント回数・合計走行距離の目安
計測機器がなくても、スプリント回数や高強度区間(息が上がる)の回数を数えるだけで傾向が掴めます。記録は継続が最優先です。
睡眠・栄養・水分補給と怪我予防
- 睡眠:一定の就寝/起床、暗く静かな環境、7〜9時間を目安に確保
- 栄養:練習前は消化に軽い炭水化物、練習後はタンパク質と水分・炭水化物
- 水分:こまめに摂る。気温や発汗に応じて回数を増やす
成長期への配慮と安全基準
- 急な負荷増や過度の反復を避け、痛みがあれば中止
- ジャンプ/着地のフォーム習得を優先し、重さより質を重視
データと映像で『見える化』する
簡易KPI(成功率・回数・時間)の記録
- パス成功率、1対1の突破/奪取、セットプレーの到達点など
- 1メニュー1指標でOK。毎回同じ条件で測るのがコツ
スマホ動画の撮り方とチェックポイント
- カメラは横、全身+周辺の状況が入る位置に固定
- チェック:身体の向き、ファーストタッチ方向、パスの準備動作、味方との距離
練習→試合の転移をどう評価するか
- 試合で「そのプレー」が増えたか、成功率はどうか
- 相手レベルを考慮して、1ヶ月単位で傾向を見る
環境制約への対応
雨天・夜間・室内での代替案
- 室内:ボールタッチ、コア、モビリティ、壁当てパス
- 雨天:滑る前提のトラップ/パス、ステップ短縮、着地コントロール
少人数・欠席時の再設計アイデア
- 2〜4人:ロンド(3v1/2v1)、縦パス→落とし→裏抜けの三角連携
- GK不在:小ゴールを活用、コーナーはショート中心で原則確認
狭いスペースで密度を上げる工夫
- ゲート式ゴール、多方向スタート、制約付きロンドで接触回数アップ
よくある失敗と対処法
メニュー過多で目的がぼやける問題
- 対処:1セッション1〜2目的、メニューは3〜4個に厳選
待ち時間が多く強度が落ちる問題
- 対処:列を短く、レーン増設、役割交代を明確化
難易度設定のミスと調整手順
- 難しすぎる→フィールド縮小/味方追加/タッチ増
- 簡単すぎる→制約追加/スペース拡大/タッチ減
評価が曖昧で改善しない時の打ち手
- 1メニュー1指標、動画10秒、次回の「やる1・やめる1」を決める
参考テンプレートとチェックリスト
個人用1週間プラン例(技術×体力×回復)
月:回復(モビリティ20分)火:技術(逆足パス30分)+短い加速3本水:補強(コア・ハム20分)+ボールタッチ10分木:ドリブルと1対1(40分)金:フォーム確認(シュート20分)+軽ジョグ土:試合日:リカバリー(散歩・ストレッチ)
チーム用90分セッション例(負荷コントロール付き)
- 00-10:RAMP+ボール導入(RPE4)
- 10-25:技術導入(縦パス→落とし、RPE5)
- 25-50:局面ドリル3v2(縦パス後の3人目、RPE7)
- 50-75:SSG 5v5 条件付き(縦起点2点、RPE7-8)
- 75-85:セットプレー確認(RPE4)
- 85-90:クールダウン&振り返り(記録3分)
メニュー設計チェック項目(10点チェック)
- 目的は1〜2つに絞れているか
- 評価指標が決まっているか
- 原則→ドリル→ゲームの流れがあるか
- 負荷と回復の波があるか
- 待ち時間を最小化できているか
- 制約が目的を後押ししているか
- 安全(ウォームアップ/着地/接触)への配慮があるか
- 記録と映像の運用が決まっているか
- 環境・人数の代替案を用意しているか
- 次回への1点(続ける/やめる/始める)が決まっているか
成長を加速する習慣づくり
ルーティンとセルフトークの整備
- 開始前の3分ルーティン(水分→モビリティ→今日の目的確認)
- セルフトーク:「踏み足を並行」「視線アップ」「1本ずつ」
目標設定と振り返りのマイクロ習慣
- 練習前に今日のKPIを1つ決める、練習後に30秒で記録
- 週末に振り返りを5分(動画3クリップでOK)
チーム文化と行動規範の構築
- 時間厳守、片付け共同、失敗に寛容・挑戦に賞賛、声掛けの基準
まとめ:今日から設計を変える3アクション
目的→評価→負荷を3分で再点検
- 今日の目的は何か、どう測るか、強度は適切かを一言で共有
映像と記録を明日から導入する
- スマホ10秒、成功率1つ、RPEをメモ。継続が最大の差になる
環境に合わせた制約設計で練習密度を上げる
- 狭い・少人数でも、方向・得点・タッチ制限で「試合に近づける」
あとがき
良い練習は難しいことではありません。「何のために」「どう確かめるか」「どう試合に繋げるか」。この3点を外さなければ、限られた条件でも確実に伸びます。今日の1本のパス、1回の声掛け、1つの記録。その積み重ねが次の試合を変えます。さあ、練習メニューの設計をアップデートして、成長のスピードを一段上げていきましょう。